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スマホゲームで手指のしびれを早期発見 東京医科歯科大と慶應大が研究Innovative Tech

» 2021年08月31日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京医科歯科大学と慶應義塾大学の研究チームが発表した「A Screening Method Using Anomaly Detection on a Smartphone for Patients With Carpal Tunnel Syndrome: Diagnostic Case-Control Study」は、スマートフォンのゲームを使って手根管症候群のスクリーニング検査を行う研究だ。30秒から1分程度の簡単なゲームをプレイするだけで、機械学習を使い、手指がしびれて動かしにくくなる手根管症候群の可能性を検査する。

photo スマートフォンのゲームアプリを使い、親指でプレイするだけで手根管症候群を早期発見するシステムを目指す

 手根管症候群とは、手首付近にある正中神経が圧迫されて起こる疾患。中高年女性を中心に2〜14%が発症するという報告もある。症状は徐々に進行するため、初期の症状を自覚しにくく、受診と治療開始が遅れがちだ。診断のための検査(神経伝導速度検査)機器は高額で、扱うために専門的な知識と経験が必要なため、専門病院に設置が限定されているという。

 研究チームは、疾患の悪化に伴って親指の動きが悪くなる症状に着目。スマートフォンで行えるゲームアプリでプレイ中の親指の運動を解析し、機械学習により疾患の有無を予測する推定モデルを設計した。

 開発したアプリは、動物のキャラクターを親指で動かして、画面上に次々と現れる野菜をキャッチするゲーム。操作時に親指以外が動かないように手を固定してプレイする。今回は、症状のない被験者12人がプレイした親指の軌跡データから機械学習モデルを構築した。

photo ゲーム画面(左)、親指以外の指を固定するためのホルダー(右)
photo 親指を駆使してキャラクターを移動させ、周囲に出没する野菜をキャッチするゲーム

 症状のない新たな被験者15人を手根管症候群患者36人のデータに適用して推定精度を検証した結果、感度94%、特異度67%、AUC(Area Under the Curve)0.86という、整形外科の専門医が診察時に行う身体所見と同等以上の精度が得られたという。

 今後はデータ数を増やし、実際に自宅などの病院外で利用してもらい、大規模なスクリーニングが可能か検証することを予定している。また手指の症状が出る他の疾患のデータも収集し、他の疾患との鑑別も目指し研究を拡張する予定だ。

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