東京の下町・江戸川区にある町工場が作った「ルアープラモ」が、「本当に魚が釣れるプラモデル」として模型ファンと釣り人の間で話題になっている。
作ったのは創業から40年以上、プラモデルや鉄道模型などホビーの金型を手掛けてきたマツキ。これまで業界の裏方に徹してきた同社が、初の自社ブランド商品としてルアープラモの販売を間もなく始める。代表取締役を務める鈴木崇嗣さんに話を聞いた。
きっかけは2年ほど前、仕事の合間の雑談だった。鈴木さんが「自社製品をやりたいよね」と何気なく話したところ、ある社員が「ルアーを作りましょう」と言い出した。
面白そうだと思い「それなら製品データ作っていかなきゃだね」と言うと「社長、実はデータもうあります」と衝撃の告白。釣り好きの社員数人が暇を見つけてはルアーの設計をしていたという。
鈴木さんは「社員が『密かに金型まで作っちゃおうかと思ってました」と言い出したので、ちょっと待ちなさい、と。せっかくなら会社として作ってみようということにしました」と振り返る。金型は高価だ。
これまで培ってきた技術を生かせるプラモデルにすることはすぐに決まった。しかし「単なるプラモデルではつまらない」と浸水対策(しっかり接着)さえすれば実際に釣りに使えるものを目指した。
それだけではない。組み立て式のプラモデルという特長を生かし、ルアーの泳ぎ方を決める「リップ」と呼ばれる部分を交換できる構造にした。キットには4種類のリップが付属し、それをベースにカスタマイズもできる。
内部に仕込むウェイト(重り)も変更できる仕様にした。キットには6mm径のステンレス球が3つ入っていて、数や位置を変えるとルアーの動きが変わる。塗装を含め、釣り好きが自分だけのルアーを作れるキットになった。
「プラモデルという組み立てる楽しさ。そこから学べるルアーの構造、仕組み。リップやウエイトの調整によるカスタム性という3つを忍ばせました」という。
しかし販売までの道のりは平坦ではなかった。6人ほどのチームで取り組み、試作までは順調に進んだものの、本業が忙しくなればプラモ開発は後回しにせざるを得ない。結局、開発に約2年かかった。
20年2月、ルアープラモは国内最大級の造形イベント「ワンダーフェスティバル 2020冬」でデビューを果たす。会場での評判は上々で、造形作家として知られるHAKUROさん(日ノ元重工)との出会いもあった。テレビや新聞では盛んにクルーズ船のニュースを取り上げていた頃だ。
YouTubeで活動している「吉本プラモデル部」が工場見学に訪れ、ルアープラモを紹介する動画も公開したのもその頃だった。しかしネットでの評価が上がる一方、緊急事態宣言の発令以後は思うように動けない時期が続く。
21年5月、マツキは販売ルートの開拓などを目指してクラウドファンディングサイト「Makuake」でルアープラモの販売を始めた。支援価格は1個1300円(税込)から。支援プランにはHAKUROさんらプロが制作した完成品も加えた。
プロジェクトは公開初日に目標金額の3倍以上の支援を集め、最終的に6倍近い数字になった。現在は支援者に向けたリターンの発送を終え、一般販売に向けた準備を進めている。
「当初はネット通販や地元模型店での販売を考えていましたが、今は流通からの声掛けもあり、より幅広く販売する手段を模索しています。11月には何らかのアクションを起こせれば、と考えています」(鈴木さん)。
町工場で生まれ、ネットで育ったルアープラモが間もなく泳ぎ出す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR