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ラップトップPCのための基礎技術が生まれるまでの紆余曲折 APMからACPIへ“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(2/4 ページ)

» 2021年10月28日 09時51分 公開
[大原雄介ITmedia]

 さて、この世代のモバイル(?)機の場合、基本的な発想は「とにかくコンポーネントを省電力化する」しかない。バックライト付き液晶は電力が多いからバックライト無しだし、LCDもフルカラーではなくモノクロ、CPUも消費電力の多い286以上ではなく、MS-DOSが動く8086でしかもCMOS版にして消費電力を落とすという仕組みだ。

 ただこれは要するに機能や性能と消費電力をバーターしているという話で、抜本的な解決にはなっていない。

 Intel自身としても、当時低消費電力で高性能なプロセッサをモバイルあるいは組み込み向け用途に模索していた。1991年にはSMM(System Management Mode)を搭載したi386SLをリリース(写真4)、1992年には同様にSMMを搭載したi486SLをリリースしている。

photo 写真4:i386SLのパッケージ。よく見るとどちらもES品というあたり、ドキュメントもかなり急いで作成されたものと思われる。出典はIntelの“Introduction to the Intel386SL Microprocessor Superset Technical Overview”

 このSMMとは要するに電力管理機構であり、StandbyとSuspendという概念をx86プロセッサに導入した最初の仕組みである。

 端的に言えばStandbyは「軽い待機モード」で、すぐ元の状態に復帰できるようにメモリの内容は可能な限り保持し、CPUなどもすぐ戻れるように電源を通電しつつ待機させる状態。対してSuspendはメモリの内容をHDDなどに退避させ、CPUやメモリは完全に電源オフする、本格的な待機モードである。これを可能にするために、SMI(System Management Interrupt)という電源管理専用の割り込みを新たに追加し、これを利用してStandby/Suspend状態に移行したり、そこから元の状態に復帰できるようにしたのがi386SL(と後追いでi486SL)である。

 このSMMをソフトウェアから利用できるようにするためのI/FをBIOSに追加しよう、というのがAPM(Advanced Power Management)である。

 SleepはともかくSuspendになると、メモリの内容をHDDに退避したり、逆に復帰時にはHDDからメモリに内容を展開したりする必要がある。これはもちろんCPUだけでは実装できず、OS側の対応が必要になる。

 直接SMMをプログラムから制御しても良いのだが、Intelとしては別にMicrosoftと心中するつもりはなく、複数のOSでこのSMMを使ってもらうためには標準的なAPIがあった方が好ましい。Microsoftとしても、今後SMM周りの仕様が絶対に変化しないという確証でもない限り、標準的なAPIを用意して、このAPIの順守をIntelに対応してもらう方がありがたい。「CPUが変わるたびに省電力機構周りの作り直し」は避けたいだろう。

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