11月9日、“都市連動型メタバース”のガイドライン策定を目指す団体「バーチャルシティコンソーシアム」が発足した。東京・渋谷区のバーチャルシティー化を目指すKDDIが主導する団体で、発足メンバーにはKDDIの他、東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインが名を連ねる。
「メタバース」とはデジタル空間上に構築されたバーチャル空間を表す概念だ。発想自体は古くから存在するが、近年、低価格なVRデバイスの普及などによって再び脚光を浴びつつある。2021年10月末、Facebookが社名を「Meta」と改めてメタバースに注力する方針を示したことは記憶に新しいところだろう。
KDDIは2018年から渋谷の街並みをメタバースとして再現する「バーチャル渋谷」の取り組みを進めてきた。これまでは実証実験として、バーチャル渋谷上でハロウィーンイベントなどを展開してきたが、2022年春には「バーチャルシティ構想」として本格的なプラットフォームの投入を目指している。
KDDIが志向する「都市連動型メタバース」は、バーチャル空間上のコミュニティーが実際の都市空間と連携する点が特徴だ。バーチャルシティコンソーシアムは「バーチャル渋谷」という現実の街を仮想空間内で再現するプロジェクトが下地となって発足しており、初期メンバーの4社は全てバーチャル渋谷に関わる事業者だ。
バーチャル渋谷では、渋谷区の公認のもと、SHIBUYA109や渋谷センター街バスケットボールストリートなど、渋谷の印象的な街並みをバーチャル空間上にそのまま再現。実際に渋谷の街並みを歩いているような体験ができるプラットフォームとなっている。
都市連動型メタバースならではといえる要素は、現実の都市空間との緊密な連携にある。KDDIの中馬和彦氏は、「バーチャル渋谷ではこの先、渋谷のファッションビルに入る店舗がメタバース上でも仮想店舗をオープンして、現実の店舗で買い物をする感覚でアバター用のアイテムの販売ができる」などの利用が考えられると説明する。
メタバース上の出来事を現実空間に反映する方向性も考えられる。一例としては渋谷の街並みの中にバーチャル渋谷の同じ地点を映し出すモニターを設置すれば、メタバース上で起こった体験を現実世界へ中継できる。こうした仕掛けを活用すれば、“バーチャルストリートミュージシャン”のライブに現実空間から参加することなどもできるだろう。
コンソーシアムの発足式では渋谷区の長谷部健区長も登壇。バーチャル渋谷の今後について「楽しみでしかない。バーチャル渋谷に行政が関わることで新しい価値が作れる。渋谷区では再開発が進んでいるが、10年後にはこういう町になっているんですよという未来像を見せたり、バーチャル空間から現実の街に潜む課題を発見して反映させたりといったような、リアルな街と連動という特徴を生かした取り組みを後押ししていけたら」とコメントした。
バーチャル渋谷では「メタバース空間上での行政サービス」の展開も視野に入れている。アバター操縦者が渋谷区の行政サービスを利用できるような仕組みを検討しているという。ただし、バーチャル渋谷の中で具体的にどのような行政サービスが提供するかは今後の検討課題としており、コンソーシアム発足時点で具体例は示されていない。
VRデバイスの普及によって、VR上のコミュニケーションプラットフォームに参加するハードルは下がっている。その一方で、バーチャル空間上の秩序維持はユーザーの自発的な協力に任せている側面もあり、法的には未整理の課題も多い。
バーチャルシティコンソーシアムの設立目的は、メタバースを利用する上で生じる法律上の課題を整理し、ガイドラインとして取りまとめることだ。コンソーシアムでは、メタバースに関する知見を持つ有識者としてデジタルハリウッド大学の杉山知之学長ら4人が参画。渋谷区や経済産業省もオブザーバーとして参加する。
KDDIではメタバース関連の事業を手掛ける企業にバーチャルシティコンソーシアムへの参加を広く呼び掛けていく考えで、将来的には異なるメタバースプラットフォームをまたいでアバターを利用できるようにするなど、メタバース同士の連携も検討している。
中馬氏は「例えば、リアルの都市と連動した商行為がメタバース内で行われたとしたら、リアルの都市とどう収益分配をしていくのか。そのようなことが実際に起こってくる」とし、「渋谷区との話し合いの中で、バーチャル内での市民権を与えようという協議も行っている。こうした課題整理の必要性を感じていた」と語る。
続けて「バーチャル渋谷をレファレンス(典型)として、2021年度中にメタバース内で起こっていることをきちっとしたルールへ落とし込んでいく」と表明した。
東急の御代一秀氏は「都市の価値を高めていく街作りを渋谷で行ってきた。昨今ではリアルな街だけでの街作りが難しくなってきた中、メタバースへ参加することとなった。リアルの街作りという事業を通して得た知見をコンソーシアムに提供して、リアル空間とメタバース、それぞれにとって良い仕組みを作っていきたい」と述べた。
杉山氏は「われわれがデジタル空間に街を作って、どう使うのかはまだよく分かっていない。街にはオフィスがあり、非常に多くの人が働いている。そういう人がメタバースに参加するとき、現実に近いアバターを作ってそのまま入るのか、あるいは仮装をするのか、別のものにしてしまうのか。それは分からない」とし、「まずは下手なルールを作らず実験していく。いろいろなことを試して、ルールを形成していく。そういうことに私も協力できればと考えている」とコメントした。
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