このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東京大学の篠田・牧野研究室の研究チームが開発した「Spatiotemporal Pinpoint Cooling Sensation Produced by Ultrasound-Driven Mist Vaporization on Skin」は、ウオーターミストを超音波で放射し、遠くにいる人の皮膚の一部分に冷たい感覚を提示する冷感ディスプレイだ。指先程度のスポットに、わずか数秒で冷感を提示できる。
これまでにも、ミストに超音波を放射し空中経路を作る方法で冷感を局所的に提示するアプローチは報告されていたが、今回は、集束した超音波によって皮膚周辺の充満したミストを気化させてピンポイントで冷感を提示するため、長距離のミスト輸送を必要とせず、より正確で強力な冷感スポットを作り出せるという。
提案システムは、振動子249個の超音波フェーズドアレイ、ミストを放出するダクト、ミストを貯留する水タンク(20L)で構成する。4枚の超音波フェーズドアレイの中央には、ダクトホースがアレイの表面と同じ方向を向くように配置。水槽内には、共振周波数が約1.6MHzのミスト発生器を設置。最高出力時には、1時間あたり4000mlのミストを発生する。タンクには、DCファンとダクトホースを接続した。
超音波フェーズドアレイは、レーザービームのように超音波を集束し、各振動子の出力波形の位相遅延と振幅を制御することで、さまざまな空間分布を持つ音場を作り出す。この原理に基づいて、充満したミスト内の皮膚の所望の位置に集束超音波を放出する。
タンク内に空気が吹き込まれ、ダクトからミストが放出。ダクトから吐出されたミストの一部は空気中を漂い、ユーザーの肌の表面付近に漂う。空気中に浮遊するミストに触れただけでは冷却感は得られないが、集束超音波を皮膚に放射すると、皮膚表面が冷やされる感覚が発生する。
実験では、超音波フェーズドアレイ面から50cm離れたところに手を置き、その手のひらに当たるようにダクトをセットアップした。サーモグラフィーカメラで手のひらを撮影し温度変化を取得する。
結果、皮膚表面に集束超音波を放射すると、温度が急激に低下。0.5秒で3.3度、1秒で4.6度、10秒で7.8度の表面温度の低下が観察できた。実験中のばらつきは1度以下であった。超音波の放射を停止すると、温度は上昇に転じた。
冷却箇所は直径約2cmの範囲に保たれたが、その周囲も徐々に温度低下が見られた。円を描くように冷却箇所を移動させたテストでは、手のひらに円形の痕跡がはっきりと観察でき、冷却箇所の連続的なリアルタイム移動にも成功した。
Source and Image Credits: M. Nakajima, K. Hasegawa, Y. Makino, and H. Shinoda, “Spatiotemporal Pinpoint Cooling Sensation Produced by Ultrasound-Driven Mist Vaporization on Skin” IEEE Trans Haptics, pp.1-1, 04 June 2021, IEEE, doi: 10.1109/TOH.2021.3086516
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