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腕をなでられる感覚を再現 コンパクトなスリーブ型触覚デバイスを東大などが開発Innovative Tech

» 2021年09月17日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京大学と法政大学の研究チームが開発した「ThermoCaress: A Wearable Haptic Device with Illusory Moving Thermal Stimulation」は、前腕がなでられるような感覚を圧力と熱によって生み出すスリーブ型の触覚デバイスだ。空気圧で触覚を刺激し、温水で温熱刺激を与える。触覚刺激だけを移動させることで温熱刺激も動いたように錯覚させ、なでられている感覚を再現する。

photo 空気圧による触覚刺激と温水による温熱刺激でなでられる感覚を再現するスリーブ型装置

 人が皮膚をなでられる感覚を再現するには、触られたときの圧力感と温度感、そして両方の動きを再現する必要がある。

 これらの動きは、多数の触覚素子と温度素子を配置するのが最も簡単な方法だが、デバイスが巨大で複雑になってしまう。人に装着する装置なため、コンパクトなデザインが求められる。

 今回は、「相互温度参照」(Thermal referral)と呼ぶ錯覚現象を用いたデバイスを作成した。相互温度参照は、触覚刺激と温熱刺激を同時に異なる皮膚上に与えると、温熱刺激が触覚刺激を与えた場所に移動する錯覚現象。

 この現象を利用すると、温熱刺激を固定していても触覚刺激を移動させれば、温熱刺激も触覚刺激に付いていくため、あたかも温熱刺激が移動しているように錯覚する。

photo 温熱刺激(赤色)を固定していても、触覚刺激(水色)が動くにつれて温熱刺激も移動したと錯覚する

 デバイスは前腕にフィットする設計で、皮膚に当たる部分はソフトな素材。触覚である圧力刺激を与えるためにマイクロブロア(エアポンプ)と収縮する小袋を採用した。大型のエアーコンプレッサーや複雑なチューブは必要としない。小袋を1列に5つ並べ、順番に空気圧で膨らませることで触覚刺激の動きを再現する。

photo 小袋を1列に5つ並べ、それぞれに空気圧を注入してなでられるような触覚刺激を再現する(B)温水を流し入れる小袋(C)

 温熱のフィードバックには、温水(実験では、25度、32度、42度の3つの温度)を使用。5列並ぶ小袋の中央にのみ温水を流す。温水は真ん中の小袋にのみだが、触覚刺激の移動に応じてこの温水による温熱刺激も移動するように感じる。

 相互温度参照によって触覚の移動と同時に温熱刺激も移動するかをユーザー実験で検証したところ、温熱刺激の移動が認められ、このデバイスで相互温度参照が使えることが実証できた。

 このデバイスは、VRゲーム、オンライン通話中のタッチコミュニケーション、遠隔からヨガやダンスのレッスン、高齢者や認知症患者のメンタルヘルスなどへの活用が可能だという。

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