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Intelがメモリ標準化で主導権を失うに至った“やらかし”について“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(3/3 ページ)

» 2021年11月26日 09時45分 公開
[大原雄介ITmedia]
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Intel、しくじりの始まり

 さて、ここからしくじりの歴史がスタートする。業界的には頑張ってPC-100まで来て、これを発展させたPC-133とかPC-166も出てきたが、「CPUの性能の伸びにメモリが追い付いていない」という不満はIntelの中にあった。そんなIntelに、800MHz駆動のメモリを提案したのがRambusである。

 Rambusは1990年創業の、文字通りメモリバスを開発していた企業である。もともとはマイク・ファームウォルド博士という割と天才肌というか、突拍子もないことを思い付く、分類で言えばマッドサイエンティスト一歩手前といった感じの発明家が、ある日突然メモリバスを高速化する方法を思い付いたことにある。

 ファームウォルド博士はスタンフォード大学で博士号を取得した時の仲間であるマーク・ホロウィッツ博士(現在は同大学教授)に声を掛け、二人でRambusを創業。早速その技術を任天堂にライセンスする。

 もっともこれも一筋縄ではいかず、当時パートナーを組んだNECがかなり苦労して実装したと記憶しているが、何はともあれ1996年のNintendo 64には同社のConcurrent RDRAMと呼ばれるメモリが実装された。

 バス幅9bitで500MHz動作となり、500MB/secのメモリ帯域を2つのメモリチップで実現することは、当時Concurrent RDRAM以外では実現不可能であり、ゲーム機向け故に低コストと高性能を両立したいという任天堂のリクエストを見事に実現した。

 余談になるがこのConcurrent RDRAMはRambusの第2世代の製品である。初代RDRAM(Base RDRAMとも呼ばれる)はChromatic Researchというベンチャー企業のMPACT!というメディアプロセッサにも採用されているが、実はこのChromatic Researchを創業したのもファームウォルド博士である。

 実はファームウォルド博士、Rambusが創業してBase RDRAMの設計が終わり、Concurrent RDRAMの設計に掛かっている辺りで既にRDRAMに興味をなくしており、代わりに新しいメディアプロセッサに夢中になってRambusの経営から降り(取締役会には現在も在籍)、Chromatic Researchを立ち上げてMPACT!を作ったという、まぁ発明家らしいエピソードが残っている。

 さてConcurrent RDRAMをさらに発展させ、PC向けのメインメモリにも利用できるようにしたのが第3世代のDirect RDRAMである。バス幅は16bit、転送速度は800MHz(のちに1066/1200MHz品も登場)で、Direct RDRAMが1chで1.6GB/secの帯域を実現できる。PC-100は100MHz/64bitで800MB/secでしかない。

 Intelの首脳陣がどうだまされたのかは不明だが、同社は1996年にRambusと広範なクロスライセンス契約を結び、同社の次世代製品にDirect RDRAMを全面採用することを決定する。この契約は単にメモリI/Fのライセンスだけではなく、800MHz〜1GHzという高速な信号をハンドリングするアナログ信号技術も含まれたものだったらしい。

 この当時、Intelにはこうした高速信号技術が著しく欠けており、高速なメモリバスと合わせて高速な信号技術まで手に入るという辺りが決め手だったようだ。

 さて、能書きは素晴らしいDirect RDRAM。IntelだけでなくCompaqのAlphaサーバとか、(完成はしなかったが)Cyrixの“Jalapeno”ことM3など、さまざまな製品がDirect RDRAMを採用する。そのなかで先陣を切って実装したのがIntelであり、1999年にIntel 820シリーズチップセットを投入。2001年にはPentium 4向けのIntel 850シリーズチップセットも投入した。で、結果は悲惨極まりなかった。ちょっと列挙すると、

  • マザーボードが超高価になった

この時代のマザーボードというかFR4 PCB(プリント基板)の場合、4層基板(プリント基板の表と裏に配線層、その間に電源層とGND層が積層されるという一般的なもの)では800MHz〜1GHzの信号を安定して通せなかった。これもあってFR4の材質の見直しや、プリント基板製造技術の精度向上(各層の厚みを均一にすることで信号伝達特性を安定化する)、利用する銅配線の精度向上(不純物の割合を減らすことで信号伝達特性を向上させる)などがこの後数年にわたって行われることになるが、取りあえず1999年の時点では6層基板でも厳しく、ハイエンドむけには8層基板が使われることもあった。当然これによりマザーボードの値段は高騰することになった。

  • メモリも高かった

 Direct RDRAMチップはSamsungとElpida Memoryのみが製造を手掛けたが、Spotマーケット(契約によらない、自由市場)にはほとんど出回らず、ほぼ全量Contractマーケット(価格と数量を事前に契約の上で出荷する方式)で提供された。この結果、全くコストが下がらなかった。最後には、CPUパッケージにRIMM(Direct RDRAM DIMM)を無料で付けるという、あり得ない方法での販売まで行われたが、それでも売れ行きはよくなかった。

  • 性能が出なかった

 何しろPC-800メモリを搭載したIntel 820チップセットのマシンより、PC-100メモリを搭載した440BXチップセット搭載の方が高速だったのだから話にならない。だいぶ後になって、Rambusのスティーブン・ウー博士に「結局何が悪かったの?」と聞いたことがある。答えは「Direct RDRAMの性能を引き出すには、CPU側からパイプライン的にメモリアクセスをする必要があるが、Pentium IIIにはそういう機能がなかった。でもPentium 4だとパイプラインアクセスになってるから性能が出るようになった」という返事であった(心の中では「でもPentium 4でも遅かったじゃん」と思ったのはないしょだ)。まあこんなことを言われても、今さらどうしようもないのだが。

  • バグが出た

 Intel 820やPentium 4向けのIntel 850で、高負荷時になるとメモリコントローラーがリセットされるという問題が発覚した。この結果、一度Intel 820マザーボードは全量リコールの対象になったのだが、修正したIntel 820でも同じ問題が再発した。おまけに、負荷を下げるために「RIMMソケットにPC-100メモリを装着する」というMTH(Memory Translator Hub)というチップが開発されたものの、このMTHにも高負荷時にリセットする問題が再現する。結局IntelはDirect RDRAM路線を断念せざるを得なかった。

 悪いことに(?)Intel以外のベンダーは、DDR-SDRAMという別種の標準技術を強力に推した。2000年に非営利団体であるAdvanced Memory International Inc.(AMI2)が設立され、ここが旗振り役となって「Team DDR」なるキャンペーンを打ち立てる。

 このTeam DDRにはVIA、ALi、SiSというIntel互換チップセットベンダーやAMD(同社は1999年にIntel互換路線を捨てて、独自規格のAthlonプロセッサを発表していた)などが賛同。Direct RDRAMを使わなくても最新のIntel CPUを搭載したPCや、Intelとソフトウェア互換性のあるAMD製PCが入手できる環境がそろうことになってしまった。さらにJEDECでもこのDDR SDRAMが標準化されることになった。

 この時点でメモリに関するIntelのイニシアチブは完全に失われた、と考えてよいだろう。

 Intelは2001年9月にRambusとの間で修正したクロスライセンスを結びなおし、IntelはもうPC向けメインメモリにDirect RDRAMを利用しなくてもよくなった。これに先立ち、まずPC-133をサポートするIntel 815をPentium III向けにリリースしていたが、ライセンスが更新された2001年9月にまずPC-133サポートのPentium 4向けのIntel 845をリリース。2カ月後の2001年11月にはDDR-200/266をサポートしたIntel 845(B-Stepping)をリリースする。

 Rambusはこの後、Direct RDRAMの反省を元に全く異なる接続方式を取るXDR DRAMを開発。今度はSCE(というか、久夛良木健氏)をたらし込む(?)ことに成功し、PS3で全面採用を勝ち取っているが、これに続く採用事例はごくわずかにとどまり、後継のXDR2 DRAMは採用事例が無いまま、この独自メモリI/F路線を放棄するに至る。

photo PS3にはRambusの技術が生きている

 一方でIntelはこれに懲りて業界標準をきちんと推進していくか……と思われたが、斜め上の方向に突っ走ることになった。次回はこれをご紹介する。

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