ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

「日本メタバース協会」の違和感 “当事者不在”の団体が生まれる背景(1/2 ページ)

» 2021年12月10日 14時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 12月7日に設立が発表された、「一般社団法人日本メタバース協会」に、SNS上で疑問の声が上がっている。

 設立したのは、4社の暗号資産(仮想通貨)関連企業だ。国内外の関連企業に参加を呼び掛けているものの、「仮想通貨はメタバースと関係がないのでは」という声も多い。

 筆者もそれに同意する。だが、この話の本質とはどこにあるのだろうか。もう少し掘り下げてみたいと思う。

日本メタバース協会の公式サイト

暗号通貨・NFTから「メタバース業界団体」が生まれる疑問

 同協会は、Webサイト上で設立目的をこう説明している。

 「メタバース(インターネット上で広がる3次元の仮想空間)技術及び関連サービスの普及、本技術に関する健全なるビジネス環境及び利用者保護体制の整備を進めることで、我が国の産業を発展させることを目的としています。

 具体的には、本協会が内外の情報を収集し、また情報を発信する起点となればと考えています。そしてメタバースに関係する企業や個人が会員となり、情報交換、場合によっては協力しあうことで、シナジーが生まれ、わが国が『メタバース先進国』となることに資することを目指しています」(一部注釈を筆者編集の上、引用)

 なるほど、そうした部分は必要かもしれない……と、納得する一方で、「代表理事あいさつ」の次の部分を見ると、疑問が浮かんでくる。

 「わが国においてはメタバースについておおまかなイメージがつく人は多いものの、メタバースで何ができるかを理解している人は少ないというのが現状です。これはメタバースを支えるブロックチェーンやNFT(Non Fungible Token)の技術を理解している人が少ないこと、技術を理解していてもそれをビジネスに展開することは簡単ではないということが背景となっています」

公式サイトに掲載されている大西代表理事のあいさつ文

 メタバースを支えるブロックチェーンやNFTの技術、とあるが、メタバースをブロックチェーンやNFTが支えているだろうか?

 これには大いに疑問がある。詳しくはのちほど詳しく説明するが、筆者の認識として、今のメタバースにとって、両者は「周辺技術」であり、支える技術とはとても言えないのが実情だ。

 「周辺技術であるものを主軸のように語り、それまでメタバース関連でビジネスをしていたように見えない人々が団体を作った」ことに対する反感、というのが、SNSなどでみられる反応の根幹にあるだろう。

業界団体が生まれても「権威」は生まれない

 新しいトレンドが生まれると、業界団体設立の動きが出るのは珍しいことではない。業界団体は、規格や法整備など、調整が必要な要素があって生まれることもあれば、関連する企業同士が先行してグループを形成し、ライバルをけん制したいという目的で生まれることもある。

 他方で、理解しておきたい大前提もある。

 それは、業界団体は「どこの誰が、どのような目的で作るのも自由」という点だ。特別な許諾や資質は問われない。

 逆にいえば、団体を作ったからといって、権威や価値、影響力が自動的に発生するわけではない。「業界団体ができたらしいから」ということなにかに忖度したり、気にしたりする必然性はないし、そのことがビジネスとしての確実性を担保するものでもない。

 だから極論「自分に関係ないと思えば無視する」でいいのだ。

 とはいうものの、業界団体があるとそれだけで「いかにも影響力を行使しそう」「価値が生まれそう」と思う人が出てくる可能性を持っている。

 今回の件は、多くの人が「メタバースという言葉を、暗号資産やNFTビジネスの権威づけに使っているのでは」というイメージを持ってしまうことが1つの問題だといえる。それが目的でないなら、団体設立時のメンバーに暗号資産やNFTビジネス関係企業以外を入れるなど、団体の構成をもっと精査すべきだったろう。

 なお、日本には過去にも「メタバースの団体」があった。2008年にデジタルハリウッドやngi group(現 博報堂DYホールディングス関連会社のユナイテッド)、サンワサプライ、インプレスR&Dなどが作った「メタバース協会」がそれだ。

 当時は「セカンドライフ」が注目を集めていた頃。メタバースという言葉はこの当時も注目されており、仮想空間を活用したサービスが他にも多数出てくるもの、と予想されていた。そのため、3Dやネットワーク、アプリなどの関連企業が集まって、今後の可能性を検討する団体として「メタバース協会」が作られた。日本メタバース協会とは少々趣が異なる。

 ただ、その後「メタバース」というキーワードへの注目度が下がったことから、2014年に閉会している。この団体に成果があったかどうかも、筆者は理解していない。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.