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群雄割拠の音楽ストリーミング、空席はもうない小寺信良のIT大作戦(4/5 ページ)

» 2021年12月15日 15時47分 公開
[小寺信良ITmedia]

大波に飲まれゆく時代(2015年〜)

 2015年は、黒船襲来につき、日本で多くのサービスが立ちあがった年である。黒船とは、「Apple Music」だ。米国でのスタートとほぼ同時に国内でも7月1日からサービスが開始された。

photo Apple Music、日本でスタート

 その前に足場を固めておこうと、5月に「AWA」、6月に「LINE MUSIC」が立ちあがった。両者とも最近新しいニュースを聞かないが、現在もサービス継続中である。2020年のICT総研の調査によれば、国内シェアでは1位Amazon Prime Music、2位Spotify、3位Apple Musicで、4位にLINE MUSICが付けている。ワールドワイド大手相手に善戦といえるだろう。一方でAWAは顧客満足度で僅(きん)差ではあるが2位に付けており、その魅力をどのように伝えてユーザーを増やしていくかが課題となっている。

 一方米国では、GoogleがYouTube Musicを立ち上げるとともに、Google Play Musicが広告付きの無料プランを開始している。PVへのリンクと無料プランの両面で、Spotifyとの差別化を図る姿勢を打ち出したが、2020年にはGoogle Play MusicがYouTube Musicへ吸収された。

 そしてそんな盛り上がりを見せる最中に、ソニーのMusic Unlimitedが終了している。結局Music Unlimitedは、日本では洋楽に強いサービスとしてローンチしたが、この頃はすでに邦楽と洋楽の力関係が逆転しており、洋楽ファンだけではサービスを支えられなかった。

 2016年にスタートした「Amazon Music Unlimited」は、覚えておきたいところだ。Echo端末限定なら月額380円と、破格の料金体系を打ち出したサービスだった。それまでサービスしていたPrime Musicよりも楽曲数が40倍の4000万曲以上(当時)となり、Amazonが本格的にストリーミングサービスへ参入したことになる。

 次なる大波は、2019年だ。冒頭にも触れたように、9月にAmazonが「Amazon Music HD」でハイレゾストリーミングをスタートさせ、mora qualitasはその翌月にスタートした。これまでDeezerやTIDALといった事業者がCDクオリティーのロスレス配信を行ってきたが、ハイレゾはダウンロード販売が主流だった。ストリーミングでハイレゾへ振ったのは、新しい取り組みだった。

 また同時にAmazonでは、3Dオーディオ(後に空間オーディオに用語統一)の配信も開始した。一方ソニーは自社で360 Reality Audioを訴求するも、サービス的には他社に頼っており、mora qualitasでは非対応だった。Amazonがハイレゾと3Dオーディオを不可分として考えていたのに対し、ソニーは別と考えていたということかもしれない。

 サービス側からすれば、3Dオーディオはデータ量的にハイレゾと変わらず、コーデック違いのデータを両方もっていて、切り替えればいい。一方ハードウェア側からすれば、ハイレゾと3Dはスピーカー構造からアンプ特性まで別物だ。出す側と受け側、そうした立ち位置の違いもあったのだろう。

 2021年ハイレゾ参入のAppleも、Amazonの考え方を継承した。加えてサービスも料金体系も、従来のままでロスレスと空間オーディオを全て1本に統一した。のちにAmazonもそれに追従し、今はAmazon Music UnlimitedがAmazon Music HDを吸収している

 現在ストリーミングサービスは、ハイレゾ/空間オーディオ対応組と非対応組に別れた格好だ。ライトユーザーは音質よりも料金体系のほうが重要だろうが、AppleもAmazonも月額980円と、それほど高いわけではないうえにPrimeユーザーは780円と安く、無料プランもある。

 最後にサービスの流れを一覧でまとめておいた。YouTube MusicとSpotifyがハイレゾ化していない今、AppleとAmazonがツートップということになるが、今後各サービスが共存できるほど市場があるのか、mora qualitasの早い損切りは正解なのかも含め、2022年以降の動きに注目しておきたい。

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