ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

飛行中に変形し、壁を登るサソリのようなドローン 韓国の研究チームが開発Innovative Tech

» 2021年12月27日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 韓国のKorea Advanced Institute of Science and Technology(KAIST)の研究チームが開発した「CAROS-Q: Climbing Aerial RObot System Adopting Rotor Offset With a Quasi-Decoupling Controller」は、空中飛行と最大90度の傾斜を登れるドローンだ。

 飛行中にローターの向きを90度に変えることで、水平方向の飛行から壁登りのための垂直方向の飛行に数秒で切り替えられる。壁登りが終わると、またローターの向きを変えて水平方向のホバリング飛行に切り替えられる。

水平方向の飛行から壁登りタスクを実行し、また水平方向の飛行に戻る一連の流れ

 これまでの壁登りロボットは、ワイヤや壁に張り付く機構に依存していたため、隙間や障害物を乗り越えにくく、接触面の状態に左右されやすい課題があった。一方で、ローターの動力を使って壁だけを登るロボットも存在するが、壁登りと飛行を空中でスイッチできるロボットはこれまでにはない。これら課題の解決含め、今回は壁登りと飛行を空中で切り替え可能なマルチローターを提案する。

 提案するマルチローターのプロトタイプは、2つのローター(長さ5インチ)がセットになった3つのローターモジュールで構成する。片方に2つ、片方に1つのバランスで本体に接続される。ローターモジュール2つが整備される側は折り曲げアームが備わっており、最大90度に折り曲げられる。

 この曲げ動作は、サーボモータ1つのみで行っており、このサーボモータを制御するためのアルゴリズムも開発した。サーボモータのみで動作する仕様なため、重量の削減と制御面での優位性を実現している。もう一方のローターモジュール1つが整備される側は常に固定されている。

 ドローン本体上部には、車輪が4つ付いており、垂直方向の飛行時に壁と接触する箇所となる。他にはフライトコントローラーやオンボードコンピュータ、セーフティガードなどが取り付けられた。

(左)提案するドローンの3D CAD図面、(右)プロトタイプ

 飛行時は3つのローターモジュールを水平にし、通常のドローンのように水平方向の浮遊を行う。壁を登る際は、2つのアーム付きローターモジュールを垂直方向に曲げて機体を垂直方向に傾ける。この垂直状態のまま飛行も可能。この状態で車輪を壁に接触させ、そのまま上下に動作することで壁を登る。壁登りが終わると、また2つのアーム付きローターモジュールを水平方向に戻し、機体を水平方向に傾けホバリング飛行を再開する。

 実験では、正確な位置情報を得るために機体にモーションキャプチャー用マーカーを取り付けて行った。ローターモジュールを曲げるテストでは、飛行中の機体の位置を維持しながらの回転に成功。

 次に行った壁登り性能のテストでも、1分以内に飛行時から垂直に機体を傾け、壁に接触し0.4m上昇したのち離脱し、水平方向に戻りホバリング飛行に戻ることに成功した。

Source and Image Credits: Hyungyu Lee, Byeongho Yu, Christian Tirtawardhana, Chanyoung Kim, Myeongwoo Jeong, Sumin Hu, and Hyun Myung, “CAROS-Q: Climbing Aerial RObot System Adopting Rotor Offset With a Quasi-Decoupling Controller”, IEEE Robotics and Automation Letters, Volume: 6, Issue: 4, Oct. 2021, pp.8490 - 8497, DOI: 10.1109/LRA.2021.3108489



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.