また、生産ラインの要所、要所では、そこまで組み上げられた車体が、設計上の性能が実現できているのかを試す「中間テスト」が行われる。
例えば、組み上げ精度の誤差分析、上下左右の対称形状の変移測定などをレーザー光を使った測距センサーを使って行ったり、次の組み立て工程に進む前に組み上がったボディー全体を揺らして不具合がないか見る加振テストを行ったりしている。
幾度かある中間テストをパスできなければ、その不合車体は破棄されたり、あるいは修正工程に回されることになる。
この厳しい「中間テスト」は、当初の導入目的はGT-Rの組み立てのために行っていたが、せっかく混流生産でフェアレディZやスカイラインも同じ場所に流れてくるのであれば……ということで、結局、最終的にはGT-R以外の車種にも適用するようにプログラムが変更されている。
つまり、混流生産されているフェアレディZやスカイラインの製造品質も向上してしまったというわけである。「GT-Rの混流生産」の実現は、栃木工場にとっては面倒なテーマではあったに違いないが、そのために導入した工程を、他の車種の製造にも役立てしまおうとする創意工夫の精神は面白い。この工夫は結果的に「価格はそのままに製品の質が上がる」ことになるため、ユーザーにとってのメリットにもなったわけである。
世界に誇る「Made in Japan」の心意気の一端を感じるエピソードである。
GT-Rの製造関連に関する取材では、どちらかといえば、GT-Rが相対的には高価となる理由にもなってくる話を聞くことも少なくなかった。
それらは「GT-Rをスーパーカーとして仕立てる」には、開発陣が譲れなかった「こだわり」の部分が多い。
最も有名なのは、日産GT-RのエンジンであるVR38エンジンは、クリーンルームにて、レーシングカーのエンジンと同等がそれ以上の品質を実現するべく、日産の横浜工場で組み上げられている……という話だろう。
前述までの「混流生産」とは打って変わり、GT-R専用エンジンは、流れ作業ではなく、「匠」(たくみ)の称号を与えられた横浜工場のトップ工員5人が、各自に割り当てられた1台のエンジンを完成まで専任担当して手組みで組み立てられる。
この部分は、まさにスーパーカー的な製造スタイルといえよう。
ちなみに、GT-R用の「GR6」型デュアルクラッチトランスミッション(DCT)は、愛知機械工業で生産されている。
そうしたスーパーカー的な、こだわりの製造工程は、足回りにもある。
GT-Rのサスペンションのアーム類の接合可動部(ジョイント部)などには、高剛性ピロボールも使われてはいるが、他の車種同様、ゴム樹脂類が採用されている箇所もある。
そうしたアーム類の組み付けは、一般的な車種の製造では、車輪などが付けられることもなく、中空状態にてサスペンションメンバーに組み付けられていく。このため、当然、アームのジョイント部には何の負荷も掛けられていない“だらーり”状態で、フロントサスペンションセクションやリアサスペンションセクションが完成する。
最終的に、車体(メインシャシー)に組み付けられ、車輪(タイヤ)が実装され、完成車両となって地面に着地したその時、初めてアーム類に1G状態の車重(荷重)がかかることになる。そして、この時、アーム類の可動部分が曲がり、ジョイント部のゴム達が潰れたり回転したりするわけだ。
ここで留意すべきなのは、その車両のサスペンションアーム達は、地面に設置した状態こそが"ニュートラル状態"にもかかわらず、ゴム類はその時点で「潰れたり、回転してしまった状態」になっていることだ。
そのため、サスペンションアームに対し、走行中に路面の凹凸入力があった際には、ジョイントを支えているゴム達は“さらに潰れたり、回転させられる”ことになる。つまりゴムの弾性特性が、本来、想定していた性能特性からずれてくる可能性がある、ということだ。「さらに潰れたり、回転させられる」ということは、過剰な負荷が掛かることでもあり、ゴム部品の寿命を短命にする影響もあるかもしれない。
そこで、GT-Rの製造においては、1Gの荷重をかけた状態で、サスペンションセクションを組み上げることとしている。つまり、サスペンションアーム達のゴムジョイント達は、完成状態のGT-Rの車重を受け止めた時と同状況にて「ニュートラル状態」となるように組み上げられるのだ。こうすることで、車両が完成して地面に初めて接地させられたときに、サスペンションアーム達を支えるゴム類達を「素の状態」にできる。車体が地面に設置した状態でゴムジョイント達は、潰れたり、回転させられていないのだ。
こういう特別な工程は、製造コストに響き、GT-Rが他車種より、高価な要因となっている。しかし、高性能を実現するためにはこだわらざるを得なかったのだ。
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