栃木工場によるGT-Rの「混流生産」は、量産車メーカーらしい決断だが、高性能車であるGT-Rを製造するにあたっては、他の車種の製造では考えられなかったような「こだわり」の部分を導入する必要があったとされる。
その1つは、それまでの量産車ではあり得ないほどの「高精度の要求」だった。
例えば、シャシーやフレーム側に組み付けられたボルトの直径と、これを組み入れることになるボディーパネル類側の“はめ込み”穴の直径のそれぞれの公差は、GT-Rにおいては“ゼロ”mmが規定された。コンマ1mm単位の誤差は許容するようだが、GT-Rの構成パーツに対しては、一般的な量産車で許容されるミリ単位の公差を認めないこととしたというのだ。
当然、製造ラインを流れてくるGT-Rの車体に対して、待ち構えていた工員がそのボディーパーツを両手で掲げ、GT-Rの車体側(シャシーやフレーム)側のボルトに差し込もうとすると、公差がゼロmmなので一発で入るわけもない。ミリ単位の公差が許容される他の量産車ならば、車体側のボルトの先端付近に狙いを定め、両手で掲げたボディーパネル側の穴を当てがいつつ、そのボディーパネルを上下左右にずらすように揺さぶれば、ググっとハマることもあるだろう。しかし、GT-Rの場合は、公差ゼロなのでその程度の工夫ではハメられない。ボディーパネル側の穴の数(=これに符合する車体側のボルトの数)が増えたらなおさらのことだ。
ということで、製造ラインでGT-Rが流れてくると、そのセクションにGT-Rが流れて来ることを告げる警告放送がなされ、こうした状況を想定されてあらかじめアサインされていた複数名のヘルプ工員が歩み寄り、ボルトと穴の対応をきっちり合うように位置調整をしてハメ込んでいく。このヘルプによってラインの流れが滞ることはなく、タクトタイム(製品製造にかける時間)も維持されていくことになる。
水野氏へのインタビュー時、「西川くんさ、どことは言わないけど、手作りスーパーカーの工場の組み立て風景って見たことある? ボルトにボディーパネル組み付けるとき、だいたいの当たりを付けてずらすだけでスっとハマっちゃうの。そうしてハメてからボルトを締めるわけ。だから、完成車の品質に“普通”と“当たり”が出ちゃうのよ。GT-Rはね。工場で完成した車両が全て“当たり”なの」と言っていたことが思い出される。
ちなみに、難度の高かったGT-R製造ラインを構築・監修した元栃木工場工務部第一技術課の宮川和明氏が「量産車メーカーのその工場としては『全車:当たり』が、われわれの誇りであり、宿命なんです」と誇らしげに語っていたことも思い出す。
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