ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

全て“当たり”にするこだわり、刀鍛冶を思わせるブレーキ焼き入れ――「日本のものづくり」マインドが凝縮されたGT-R西川善司の「日産GT-Rとのシン・生活」(2/6 ページ)

» 2022年01月02日 12時38分 公開
[西川善司ITmedia]

 GT-Rのような高性能スポーツカーは月に何台も売れるものではない。注文がなければ製造ラインは稼働率が下がり、その製造ラインはただ工場の敷地面積を専有しているだけの文字通りの「デッドスペース」(Dead Space)となる。フェアレディZやスカイラインも、大量に注文が来るようなタイプの車種ではないが、ここでGT-Rの混流生産が加われば、工場の稼働率を向上させられる。

photo 2021年に発表され、2022年に生産が始まる新型フェアレディZも、栃木工場で生産されるといわれている

 結果、2007年末に発売された日産GT-Rの最初期モデルは777万円という、今、思えばとんでもないバーゲン価格で発売された。当時の自動車メディアやファン達は、その絶対的な価格の高さをあまり歓迎しなかったが、2002年に最終型として発売されたR34型「スカイラインGT-R V-SpecII nur」(280馬力)が610万円だったことを考えると、当時の国産車最大級出力480馬力の日産GT-Rの価格が777万円に収まったことは、一定の妥当性はあったように思える。ただ、当時のわれわれが抱いていた「GT-R」に対するブランドイメージよりは、だいぶ車格が上昇してしまい、そこに反発が起きたことについては無理もないとは思う。

 ただ、後に取材に応じてくれた栃木工場関係者は「専用工場で生産していたらGT-Rは1000万円台中盤から2000万円くらいの、当時のポルシェ911に近い価格になっていたと思う」と述べていたので、この「混流生産」という選択がなければ、その批判はさらにすさまじいものになったことだろう。

 実際、他社の事例にはなるが、最終モデル「TYPE-S」の生産をもって終了されるホンダの現行型「NSX」は、米国オハイオ州メアリズビルに約80億円を投資してNSX専用工場を設立し、新規に工員100人を雇用して生産に取り組んだが、結果、市場価格は2400万円超になってしまった。車格と時代が違うとはいえ、先代「NSX」(デビュー当時の新車価格800万円)から3倍近い価格になってしまったことは、ファンの間でやはり残念がられた。

 なお、オハイオの現行型NSXの専用製造工場(Performance Manufacturing Center)は、2016年から製造が開始されたが2022年一杯で稼働が終了する。わずか6年で終了はとてももったいない気がする。

photo ホンダの現行型NSXの生産工場は米オハイオ州に建造された。NSXは2022年内に製造を終了し、工場建屋は次期生産車用の設備に置き換わる予定となっている

 日産栃木工場のフェアレディZ、スカイライン、GT-Rの混流生産ラインは、GT-R製造については、15年間稼働し続けられたわけだが、もしかすると、GT-Rも専用工場を新規に設立していた場合は、ホンダNSXのようになっていた可能性は拭えない。ちなみに、初代NSXは、ホンダの栃木県(本田技研工業高根沢工場)で生産されていた。栃木県の自動車製造工場は「国産スポーツカー製造のメッカ」といったところである。

 ところで、注目が集まる日産の新型EVタイプのSUV「アリア」は、GT-R混流生産ラインと建屋は違うものの、この栃木工場に新設された製造ラインで組み立てられることが明らかとなっている。最新のAI技術とIT技術を駆使した、その未来的な製造設備については筆者が詳細にまとめているので、是非とも一読を願いたい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.