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「MacはもともとWindowsだし」にならなかった理由CloseBox(2/3 ページ)

» 2022年01月27日 19時40分 公開
[松尾公也ITmedia]

Windows NTをMacの土台にする

 AppleのMacに搭載される次世代OSとして開発されていたCoplandを廃棄して、外部のOSを使おうと提案していたのはアメリオが前職のNational Semiconductorから連れてきてCTOに就任したエレン・ハンコック。しかし、最終的に決定したのは、Appleの窮地を救うために雇われた、企業再建に長けた経営者として送り込まれたアメリオだ。

 アメリオがまずコンタクトしたのは、コンシューマー向けOSではライバルであるはずのMicrosoftを率いるビル・ゲイツだった。Windows NTをMac OSの土台とする案をゲイツに持ちかけたところ、ゲイツは大乗り気だった。

 Windows NTを採用すれば安価で高性能なIntelプロセッサで動く堅牢なOSでありながらWindowsとの互換性も維持できるという、メリットの大きい選択肢だった。ゲイツは知的所有権問題の解決を条件に、このプロジェクトを推進しようとした。それから毎日プッシュの電話が届く。MSのエンジニアがAppleを訪れて詳細な打ち合わせも始めた。しかし、ここで重大な問題があることを、後にAMDに移籍することになる上級エンジニアのウェイン・メレツキーが指摘する。技術的な問題が見つかり、解決しようとすると処理速度が犠牲になるというのだ。ゲイツは解決できると力説するが、なかなか進まない。

 結局、Windows NTの上にmacOSを構築するには相当の工数がかかることが予想されたため、結論付けることはしなかった。

 アメリオが次に交渉したのはジャン=ルイ・ガセー。ジョブズ追放後のAppleでジョン・スカリーの元で君臨していたカリスマだ。彼が率いる新興企業BeのBeOSは、PowerPCマシン上で動作する全く新しい軽量な高機能OSとしてユーザーの人気が高まっていた。

photo BeOSのCD-ROM

 Macと同じPowerPCプラットフォーム(当初はBeOSマシンのハードウェアも販売していた)であることからMacユーザーの間でも、AppleはBeを買収すべきだとする意見が多かった。ガセーはアメリオに対し、金額は問題でない、自分はエレン・ハンコックの下についても構わない、などと、噂されていた傲慢さを感じさせない殊勝な態度を取っていた。

 一方、アメリオはBeOSがあまりにも未完成で、プリンタドライバも用意されておらずマニュアルも存在しないといった点を危惧しており、性急に結論付けないと判断した。

 そこでもう1つのオプションとして、ワークステーションのトップメーカーで、スコット・マクネリー率いるSun MicrosystemsのUNIX OS、Solarisの検討を進めた。Solarisはエレン・ハンコックが強く勧めており、堅牢性では問題なかったが、グラフィカルユーザーインタフェースについてSunは不得手でMac OSの洗練されたGUIに対応させるには不安が残った。

 この時点では3社が競っていた状況だったが、ここでガセーが、アメリオとの交渉をマスコミにリークし、交渉を有利に進めようとしてきた。買収の条件もAppleの株式15%と交換という、当時のBeの価値からはかけ離れたものだった。

 マスコミを利用したガセーの交渉手法に疑問を抱いたアメリオは、まだ交渉していなかった最後の選択肢に着手する。スティーブ・ジョブズ率いるNeXTである。なぜスティーブ・ジョブズを最初から選択肢に入れなかったかというと、アメリオがジョブズと最初に会ったときの印象が原因だった。

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