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「MacはもともとWindowsだし」にならなかった理由CloseBox(3/3 ページ)

» 2022年01月27日 19時40分 公開
[松尾公也ITmedia]
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ジョブズはアメリオとの対談で何を話したのか

 2人が最初に会ったのは、アメリオがAppleのCEOに就任する前のこと。アメリオはNational SemiconductorのCEOとして、Appleの社外取締役に選任されていた。それを知ったジョブズがアメリオに電話し、ナショセミまで会いに行ったのだ。

 このときジョブズが提案したのは、自分がAppleのCEOに復帰することだった。

 「このままだとAppleはつぶれてしまう。救う方法はただ1つ。強力なリーダーを立てることです」と言うのだが、この強力なリーダーというのはジョブズ自身のことなのだ。

 しかし、復帰したらどうやってAppleを復活させたいのか、具体的なプランは出さない。ネットワーク機能が重要だというだけ。アイデアなどないのでは、と乗り気でないアメリオに「あなたにはさぞかし立派なアイデアがあるんでしょうね」とジョブズ。会談は物別れに終わった。

 Apple社内では、Macの次世代OSの土台としてCMU(カーネギーメロン大学)が開発しているMachカーネルが適切ではないかという意見が上がってきた。しかし、Machは未完成で、そのまま使うわけにはいかない。でも、Machを商用で使っているところがあるという。それがNeXT。CMUからMach開発者であるアヴィー・テヴァニアンを9年前に引き抜いていたジョブズ。Beとの交渉がうまくいかない状況でそのことを思い出したアメリオと、いったん切れたジョブズとの縁が再びつながる。

 この3社との交渉がまだ継続中であるということをApple社内のスパイネットワークから得たスティーブ・ジョブズからAppleにコンタクトが来る。電話でアメリオと会談したジョブズは以前と打って変わった落ち着いた様子で、自分と直接会って話をするまで決断を下すなとだけ言った。

 電話から1週間後、日本に行って戻ってきたジョブズはアメリオの元を訪ね、買収を含めた、さまざまな方法で「NeXTがAppleの役に立てる」と提案した。1996年12月2日のことだ。

 その後、社内で4つのオプション、Windows NT、Solaris、BeOS、NeXTSTEPをMacで使った場合どうなるかということをメレツキーらによるエンジニアリングチームが57項目にわたって評価した結果、1位NeXT、2位Beとなった。この2社による最終決戦は12月10日に決定した。

 場所はパロアルトのガーデンコートホテルの会議室。ここで最初はジョブズとアヴィー・テヴァニアンが、次にガセーがプレゼンした。いや、ガセーは特にプレゼンを行わなかった。NeXTのプレゼンが完璧に近いものだったのに対し、Beはちゃんとしたプレゼンも提案もなかった。自分らが負けるはずがない、勝負は決したということで何も用意していなかったようだった。

 数日後の取締役会で、NeXT買収が決定した。ジョブズの自宅にアメリオが訪れて打ち合わせをした後、正式発表は12月20日に行われた。

 そして今、われわれが使っているMacはNeXTの技術が使われている。MicrosoftがWindows NTカーネル上にMac OSを作るということにはならなかった。

 アメリオによれば、ビル・ゲイツもテヴァニアンを狙っていたそうなので、彼がジョブズの代わりにゲイツを選んでいたら、WindowsのコアがMachである世界線があり得たかもしれない。

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 ギル・アメリオは現在、VideoBombというXRスタートアップの取締役だ。

photo ギル・アメリオ

 ジャン=ルイ・ガセーは、Mediumで現在のAppleについて論評するブログを執筆している。彼の分析は素晴らしく、文章も面白いので一読の価値はある。

photo ガセーのブログ
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