ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

「MacはもともとWindowsだし」にならなかった理由CloseBox(1/3 ページ)

» 2022年01月27日 19時40分 公開
[松尾公也ITmedia]

 かぐや姫は5人の求婚者に無理難題をふっかけて、結局誰とも結婚しなかったが、Appleは違った。

 1996年、当時のApple CEOだったギル・アメリオは、Mac OSの次世代OSとして4社の技術を検討していた。この辺りは「ヤマーとマツ」連載で語ったとおり。

 このときの交渉次第では、MacがSolarisを土台に構築された真のUNIXとなったり、全く新しいOSであるBeOSで心機一転やり直していた可能性もあったわけだ。ひょっとしたら、MacはWindows NTカーネルの上に生まれ変わって、今頃は「MacはもともとWindowsだし」というSNS投稿に対して「そんなん常識じゃん」とリプが来るような世界線だったかもしれない。

 結果的に、NeXTとNeXTSTEP/OPENSTEPが選ばれて、AppleがNeXTを吸収。おまけでついてきた出戻りスティーブ・ジョブズがAppleを再び率いて見事に再生させたというお伽噺はみなさんご存じのことだろう。

 その経緯について、最も詳しく書かれているのが「アップル薄氷の500日」。ソフトバンクから1998年8月15日に出版された書籍だ。

 この頃のソフトバンクは出版事業部があり、その後ソフトバンク・パブリッシングとして分社化し、ソフトバンク・クリエイティブとなり、現在のSBクリエイティブに至る。ちなみにアイティメディアの源流はソフトバンク出版事業部で、そこから分社した。この本が出たのは、筆者が編集長をしていたMacUser日本版が休刊し、メルマガのMacintosh WIREに移行していた時期。Macのメディアをやっていたので、この書籍の担当編集者から本をもらって、それが家にある。だが、カバーが取れているので写真を撮り直してもらった。

 なお、訳者である中山侑さんによる後書きには、事実関係確認の協力者として、Appleのマーケティング本部副本部長だった外村仁さんとともに自分の名前も挙げられている(そこにはMacintosh WIRE編集長と書かれている)。そういえば、ゲラの段階で読んでいたのだった(このことは完全に忘れていた)。

photo 撮影は本書の担当編集者、佐藤由紀子さん

 残念ながらこの書籍は絶版となっており、翻訳本なので電子書籍も難しいだろう。そこで、その内容を読み解きながらお届けしたい。Wikipediaや他の伝記本「アップル―世界を変えた天才たちの20年」(ジム・カールトン)、「スティーブ・ジョブズ」(ウォルター・アイザックソン)とも微妙に内容が異なるが、当事者による、しかもその時点からわずか1、2年での回想なので信憑性は高いと思う。

 この4人の求婚者(企業だが)の中から1人を選び出す作業は困難を極めた。何しろ相手は百戦錬磨の人物ばかりだ。本書ではギル・アメリオが彼らとどう対峙し、交渉し、決断していったのかを当事者の視点で語っている。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.