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クルマのUXはキケンな過渡期 最近のクルマはコクピットドリルで説明しきれない問題【新連載】「自動運転未満」なクルマとドライバーの関係(2/3 ページ)

» 2022年02月01日 09時15分 公開
[渡辺泰ITmedia]

自動運転の現状

 そのTeslaですが、FSD「Full Self-Driving(フルセルフ ドライビング)」という「自動運転」(Autoパイロット)機能を有償のオプションとして提供しています(最近1万2000ドルに値上げが発表された)。しかし、その中身は自動運転レベル2であり、レベル3ではありません。

 「自動運転」及びそれに関連する技術は、「事故をなくす」という素晴らしい目標を持ってるわけですが、SAEレベル5である「完全自動運転」が実現されるにはまだまだ時間が掛かりそうです。筆者はHypeサイクルでいう「幻滅期」に入ったのではないかとさえ思います。

 となれば、ドライバー(人間)が責任を持つレベル2が市場の基準になってくるわけですが、そこにもまだまだ解決しなければならない課題があると思います。

 池袋での暴走事件をきっかけに某国産車の操作系が問題では無いかとの意見がネットを中心に出たことがあります。そのモデルのシフトレバーが誤操作を誘発するというものです。実際、私も同型車をレンタカーで乗ったことがありますが、操作に戸惑った記憶があります。

 オートマチック車のセレクターレバーのポジションは「P・R・N・D ・S」が標準でしたが、S(セカンド)の代わりにB(ブレーキ?)が追加され、しかもレバーが真ん中に戻る電子スイッチ式となり、目視でポジションが分からないものになっているのです。

 ADASやインフォテインメントなど付加機能の前に、運転するための基本操作が間違いなく行えることが求められるのはいうまでもありませんが、これもHMIがドライバーフレンドリーではない一例です。

ドライビングに最適なHMIとは

 筆者が20年以上前に乗っていたアルシオーネSVXというクルマがあります。かのカーデザインの巨匠ジョルジェット・ジウジアーロがデザインした流麗な美しいボディデザインをまとった2ドアクーペでした。

アルシオーネSVX CM(1991年)

 そのSVXの発売当時のキャッチコピーは「500miles a day」でした。500マイル(約800キロ、東京→広島に相当)を1日で走れるクルマという意味です。

 それを実現するための特徴となる仕様として、運動性能や静粛性が高く疲れないシートに加えて、カーオーディオの操作パネルをカバーパネルで覆い隠せるようになっていたのはあまり知られてないポイントです。ドライバーの視界を少しでも妨げるものは排除しようという考え方ですね。

 ところが、最近の新型車のインテリアを見ると、(ここもTeslaの影響だと思われますが)、ドライバーの視界内に複数の大型液晶パネルが並び、ギラギラと輝き、ドライバーの視界を奪ってるように思います。

 運転中のスマホ操作が問題視されてますが、車自体のHMIがDriver Distraction(ドライバーの気を散らすこと)を助長しているのは本末転倒のような気がします。

 安全神話を持つメルセデス・ベンツも以前はドライバーを邪魔しないHMIをポリシーとしていると言っていた時期がありましたが、最近のモデルを見る限り、その思想はどこかに行ってしまったようです。

photo Driver Distractionを生む多画面(新型メルセデスAMG SL)

 まるで大きなタブレットをそのまま配置したような大型センターディスプレイのみを備えるTeslaのUIは革新的でしたが、エアコンのルーバー(吹き出し口)の方向を変える操作までも画面操作でというのはやり過ぎでしょう。Teslaをガジェットとして捉え、(キャズム理論でいう)イノベーター的なオーナーにとってはそれでも良いのかもしれません。

 しかし、若葉マークの初心者ドライバーから免許返納間際の高齢者ドライバーまで、誰が乗っても迷うことなく運転できるかというと残念ながらそうではないと思います。

 ある調査によると、自動車購入者の不満としてインフォテインメントの操作が分かりにくいことが上位に挙げられるそうです。

 しかも若い世代の方が不満が高い。恐らく、スマホを操る消費者からすると現状のHMIは満足できるレベルまで到達してないのではないかと想像します(逆にスマホにも不慣れな層はインフォテインメントを使おうともしていない可能性あり)。

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