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「他人とどれくらい関わりを持ったか」計測するデバイス、はこだて未来大が開発Innovative Tech

» 2022年02月14日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 公立はこだて未来大学角康之研究室の研究チームが発表した「社会活動量と身体活動量の関係に着目したライフログの可視化」は、ウェアラブルデバイスで計測した運動量だけでなく、その際に人とどれくらい関わったかの社会的活動量を同時に計測し、両者の数値から行動を分類し考察した論文だ。

 ここでいう社会的活動量とは、実空間における対面状況において他人と何らかの関わり合いを持った数値を指す。対面での会話や一緒に食事、ミーティングなどが該当する。

 研究では、この社会的活動量と身体的活動量の両方を計測し、各行動の特定と質の評価を行う。身体活動量は、Fitbitを使用し運動時の心拍数から推定できる消費カロリー量を使う。社会活動量は、ユーザーの前方を撮影する胸元装着のウェアラブルカメラに映る他人の顔の数を使う。

手首装着型デバイスで身体活動量を、胸元装着型デバイスで社会活動量を計測する

 その際、横顔や後頭部は認識せず、正面の顔だけをカウントする。対面に他人の顔が来る状況は、ユーザーがその場に一定の度合いで参加していると考えられるからだ。映像全体に占めるその顔の面積の割合も考慮し、このような他人との近接性を計算に含める。

 このように、単にすれ違った人や、人が大勢いる場でも対話をしていないなどの関係のない顔と、対面で会話しているなどの関係のある顔を区別している。

 さらに、同じ顔を連続的に検出する状況も考慮し、他人との時間継続性も計算に含める。これら近接性と時間継続性を計算に含めることで、単に顔を検出するだけの方法よりも社会的活動量においての検出の質を上げている。斜めや隣り合わせの対話を捉えるために、画角が200度のカメラを使用する。

胸元に装着するカメラから撮影した各行動の画像

 ある大学生1人の日常生活の中で収集したデータの中から37個のシーンを10分間ずつ抽出し、それぞれのシーン毎に計測した身体活動量と社会活動量を使って二次元平面にプロットした。その際、活動の種類に応じた傾向を見るために、ミーティングや食事、スポーツといった8種類のシーンに対応付けてプロットを色分けしている。これらの分類は本人が主観的に行った。

社会活動量(縦軸)と身体活動量(横軸)の関係と各種行動を表した図

 結果は、身体活動量の比重が大きい傾向がある活動、社会活動量の比重が大きい傾向がある活動、身体活動量と社会活動量の比重が同じくらいの活動の3つのグループに大きく分類できると分かった。

 傾向として、一緒に食事やグループミーティングをすると社会的活動量を、散歩やグループでスポーツをすると身体的活動量を増やせることが分かった。両方の活動量を増やしたい場合には、複数人で何か作業をすると良いことが明らかになった。

 一方で、積極的に人と関わらない食事やミーティングでは、料理を作る作業と似た活動量が得られた。これは人が多数いる場であっても積極的に人と関わっていないことを示唆している。

 同じ種類の行動でも、状況次第で活動量に広がりがある。場合によっては、身体活動量も発生しているミーティングがあることに気付かされる。

 逆に、一見活動の種類が全く異なるものでも、この二次元プロットの上では近くに位置付けられるものがある(例えば、食事とミーティングや、散策とスポーツ)。このことは、例えば、運動量不足や社会活動量不足を補おうと思った際に、その解決方法は一つではなく、そのときの状況に応じた活動を選ぶことができる可能性を示唆する。

 今後は、活動の種類と量や質が1日の満足度や疲労度に関係するのかを調べ、心身の健康に良いと考えられる次の活動を提案し、満足度や疲労度が改善される行動変容につなげたいとしている。

出典および画像クレジット: 奥野 茜, 角 康之. “社会活動量と身体活動量の関係に着目したライフログの可視化” 情報処理学会 インタラクション2020. 2020/3/9, 3P-83.



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