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ジャケットなど、ゆるい服の全身の動きを追跡 電子楽器「テルミン」をセンサーに利用Innovative Tech

» 2022年02月14日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 ドイツのDFKIとドイツのTU Kaiserslauternによる研究チームが開発した「MoCapaci: Posture and gesture detection in loose garments using textile cables as capacitive antennas」は、ゆったりとした衣服で全身の動きを検出するシステムだ。テルミン技術と導電性テキスタイルアンテナを使い、男性用ジャケットに組み込まれたプロトタイプでモーションキャプチャーを行う。

プロトタイプのジャケットを着て捉えたポーズやジェスチャーと信号の例

 これまでの全身の動きを追跡するモーションキャプチャーシステムのほとんどは、ブレスレットやストラップなどの専用アクセサリーを通して身体(もしくはタイトな衣服)にしっかりと固定したセンサー(慣性計測ユニットやひずみセンサーなど)を必要とする。そのため、複雑に動くゆったりとした衣服にセンサーを取り付けても正確に追跡することはできないでいた。

 この課題に挑戦するため、既製の部品を使った非接触型静電容量センシングに基づく、ゆったりとした衣服での身体検出のための新しい手法を提案する。

 この手法は、電子楽器テルミンの技術をセンサーとして応用する。テルミンとは、空中で手を動かして音量や音程をコントロールする電子楽器を指す。ピッチ調整用の長い金属棒(ロッドアンテナ)と音量調整用のアンテナ(ループアンテナ)から成り、アンテナの範囲内(電磁場)で移動する手の位置によって静電容量が変化し、これに伴って変動する周波数を音に変換する。

 プロトタイプでは、ロッドアンテナの代わりに柔らかい導電性のワイヤ(もしくは導電性のテキスタイル)を使用し、男性用ジャケットに組み込んだ。上半身の姿勢やジェスチャーを検出するために、胸、肩、背中、腕をカバーする4チャンネルのアンテナを設計した。

 フロントアンテナ(CH1、CH4)はポケットからトップボタンにつながり、ラペルの内側のシワに沿うようにノッチまで回り、肩から背中につながり、肩パッドの中央で終わる。

 胸部アンテナにはテキスタイルケーブルを使用し、ランニングステッチで裏地に直接縫い付けている。背中のアンテナ(CH2、CH3)はポケットから出て、広背筋の上を三角筋に向かってカーブし、外袖のラインに沿い、袖口ボタンの前で終わる。

 テルミンのコンポーネントであるOpenTheremin V3を2台ジャケットのポケットの中に入れ、4チャンネルをサポートする。チャンネルあたり100Hzでサンプリングし、USB経由でコンピュータに送り処理を行う。着用者の体の動きに合わせてアンテナが動き、その結果信号が変化し認識できる。

プロトタイプの概要

 日常動作に基づく上半身の20の姿勢とジェスチャー(胴体の傾きや両腕の動きなど)を分類するための深層学習モデルを構築した。実験では、被験者14人にジャケットを着用してもらい、立った状態で、これらの姿勢やジェスチャーを行ってもらった。

 その結果、平均95%の認識精度で検出することに成功した。見知らぬ人に対しても、平均85%以上の認識精度を達成し、ロバスト性を示した。

Source and Image Credits: Hymalai Bello, Bo Zhou, Sungho Suh, and Paul Lukowicz. 2021. MoCapaci: Posture and gesture detection in loose garments using textile cables as capacitive antennas. 2021 International Symposium on Wearable Computers. Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 78?83. DOI:https://doi.org/10.1145/3460421.3480418



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