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ウイスキーを嗅ぎ分けるAI「NOS.E」 銘柄や産地などを95%の精度で識別Innovative Tech

» 2022年02月22日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 中国のShandong First Medical University、オーストラリアのUniversity of Technology Sydney、中国のXidian University、カナダのUniversite du Quebec a Trois-Rivieresによる研究チームが開発した「The Use of Electronic Nose for the Classification of Blended and Single Malt Scotch Whisky」は、スコッチウイスキーを1回嗅ぐだけで、その銘柄や産地、スタイル(ブレンデッドやモルトなど)の違いを識別する分類法だ。

 平均約95%の精度でウイスキーの銘柄を特定した。提案手法は、複雑なサンプル調製を必要とせず、現場での迅速なトレーニングと検査が可能だという。

この手法を使用するためにセットアップした様子

 悪意ある者が、ウイスキーの中身や表記を変えたり、不純物を混入したりなどの不正や偽造行為をするケースがある。訓練を受けた専門家や経験豊富な愛好家は、香りからウイスキーの違いを見分けられるかもしれないが、大多数の人は香りだけで区別するのは困難だろう。

 これまでにも匂いから識別する装置や手法は提案されてきたが、装置が高価やサンプル調製や使用方法が複雑などの理由で一般的に用いるにはハードルが高い。

 今回提案する分類器は、これまでより安価で使用方法も簡単でありながら、ウイスキーを1回嗅ぐだけで銘柄や産地、スタイルを短時間に高精度で特定する。セットアップは、分類器プロトタイプ「NOS.E」(5種類の標準的なMOSガスセンサーをベースにしたシステム)と、それに接続するノートPC、ウイスキーを入れる小瓶などで構成する。

 小瓶に入ったウイスキーの香りはガスセンサーに注入され、センサーがさまざまな匂いを感知してデータをコンピュータに送り、分析する。そして、重要な香りの特徴を抽出し、ウイスキーの銘柄や産地、スタイルを認識するように設計した機械学習アルゴリズムで分類を行う。

システムの概要図

 実験では、ジョニーウォーカーの赤ラベル/黒ラベルからマッカランの12年物まで、3種類のブレンデッドモルトと3種類のシングルモルトウイスキーのサンプルを使用し、これら装置を用いて、銘柄や産地、スタイルに基づいて識別するテストを実施した。

 確認分析としてGC×GC-TOFMS(包括的2次元ガスクロマトグラフィー、飛行時間型質量分析計)で得られた結果と比較する。GC装置は高精度だが使用方法が複雑で高価である。

 その結果、この手法は高度な手順を必要とせず、銘柄96.15%、産地100%、スタイル92.31%の高い精度での識別ができると分かった。

 さらに、CEBIT 2019の展示会で収集したウイスキー58本のデータセットをサンプルとしてフィールドテストのデモを行った結果、銘柄、産地、スタイルとそれぞれ高い分類精度を達成し、その有効性を強調した。

Source and Image Credits: W. Zhang, T. Liu, A. Brown, M. Ueland, S. L. Forbes and S. W. Su, “The Use of Electronic Nose for the Classification of Blended and Single Malt Scotch Whisky,” in IEEE Sensors Journal, doi: 10.1109/JSEN.2022.3147185.



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