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全て糸でできた46インチのディスプレイ カラー映像の出力や折り曲げが可能Innovative Tech

» 2022年02月15日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 英ケンブリッジ大学などによる研究チームが開発した「Smart textile lighting/display system with multifunctional fibre devices for large scale smart home and IoT applications」は、全て繊維素材で製造したスマートテキスタイルシステムだ。

 ディスプレイ部にカラー映像を映し出せ、表示した状態で通常の布地のように折り曲げられる。各種センサーやアンテナも繊維で構成しており、指によるタッチや光、温度を検知し、ワイヤレス電力伝送を可能にする。エネルギー保存も可能だ。

46インチのプロトタイプの画面に映像を表示した状態で横に折り曲げた様子
巻いたり縦に曲げたりしても故障しない。ディスプレイの厚さは5mm未満

 近年、導電性の糸や布を使ったスマートテキスタイルの研究が進められているが、その機能性や寸法、形状には限界が示されている。既存の織り機を使った製造プロセスに組み込めないことを一因としている。そのため、製造プロセスに組み込める適切な技術であれば、応用サイズや形状は拡大できることになる。

 今回は、既存の織り機の製造プロセスに耐えられるように、各種入力、出力デバイスになる繊維ベースの素材を十分な伸縮に耐えられる材料で保護コーティングした。これにより従来の織り機で加工しても性能的な劣化はごくわずかで、互換性が保てるという。これは、ほぼ無制限のサイズでスマートテキスタイルを製造できることを示唆する。

 プロトタイプは、1つの出力デバイス(F-LED、ファイバーLED)と、対称、非対称の織りパターンに対応する6つのF(ファイバー)系入力デバイスを綿繊維プラットフォームに組み込んだ。サイズは46インチで厚さは5mm未満。この幅60cmを織るためには、緯糸の本数が1000本以上いるという。

 F系入力デバイスは、F-RF(高周波アンテナ)、F-photodetector(光センサー)、F-touch sensor(タッチセンサー)、F-temperature sensor(温度センサー)、F-biosensor module(バイオセンサー)、F- energy storage(エネルギーストレージ)の6つで、全て繊維に落とし込んでいる。

 大きな面積を占める映像を表示する出力デバイスの製造は、RGB LEDを銅ベースの糸に搭載したF-LEDを織り込んで、画面解像度84×76および120×65ピクセルでフルカラー34インチディスプレイに仕上げた。F-LEDの画素間ピッチはそれぞれ7mmと5mmに設計されている。

 映像のゆがみを防ぐために綿糸で一列ずつ非対称(F-LEDと綿糸は1:3)に編んでいる。コントローラーは700ピクセルまでしかデータにアクセスできないため、LED8本ごとに1つのコントローラーを追加し、34インチのテキスタイルディスプレイを操作するのに必要なコントローラーは10個になった。

 F系入力デバイスは、残りの面積に織るか刺しゅう、または接着剤などを使用し組み込む。RFアンテナは、HF帯(周波数13.56MHz)からの距離で受信するように設計された正方形のスパイラルアンテナを、導電性の糸で刺しゅうした。

 タッチセンサーは、触れたときに抵抗値の変化を示すために銀ベースの導電性の糸で縦横で織り込んだ。タッチパッドに匹敵するような複雑な同時読み取り、マルチタッチ機能を実現したという。温度センサーは、2本の銅、酸化銅繊維を撚り合わせた繊維システムを織り込んだ。実験の結果、温度範囲は5度から70度の間であるとわかった。

 エネルギーストレージは、炭素繊維の束の間にゲル電解質(ポリビニルアルコール)を挟んだ二重層繊維スーパーキャパシターとして組み込む。直列に接続し5つの繊維キャパシターは、合計5Vの出力電圧を示した。

 繊維キャパシターの静電容量を増加させるために、銀ベースの導電性の糸を炭素繊維に組み込んだところ、総静電容量が3倍に増加した。エネルギーストレージは、主に電源とディスプレイ、モニタリングモードの切り替えに使用される。

 バイオセンサーは、トランジスタと抵抗器、心電図パッドから構成する。この織物状トランジスタは、非対称の織物パターンと銀ベース接着剤によるレーザーはんだ付けで組み込む。心拍や心電などの生体信号を取得できる。

 その他、F系デバイス(入力部)から、F-LEDディスプレイ(出力部)への情報を電気的に伝達するために、導電性の糸で回路を形成している。

(a)各種デバイスの詳細、(b)織り方、(c)入力、出力デバイスの配置図

 このように製造したスマートテキスタイルシステムは、低電圧(3V未満)で、形状変化に対しても色純度や輝度を維持したまま、RGB色で104cd/m2を超える輝度を実現した。

 熱の安定性をテストしたところ、6時間の連続動作で2度以下の温度変化(24.7度から26.2度)を観察した。防水性能(水深1m、30分間)を調べたところ、全てのF-デバイスが目立たない性能変化を示す程度だった。

 プロトタイプは、テレビのようにカラー映像を表示するディスプレイとして使用できるだけでなく、心臓の電気的活動を捉え心電図として映し出したり、後で使用するためにエネルギーを蓄積したりすることも可能だ。入力部は、高周波信号やタッチ、光、温度も検出できるため、応用範囲は多岐にわたるだろう。

(b)F-RFアンテナと送信機の間の距離に応じてデジタル化された信号強度のリアルタイムに操作している様子、(c)光検出器への紫外線を検知している様子、(d)タッチセンサーで操作で操作している様子、(e) 指で握った温度センサーでリアルタイムに温度を測定している様子、(f) バイオセンサーモジュールで計測した心電図信号、(g)ディスプレイのスイッチへの電源としての機能するエネルギーストレージ

Source and Image Credits: Choi, H.W., Shin, DW., Yang, J. et al. Smart textile lighting/display system with multifunctional fibre devices for large scale smart home and IoT applications. Nat Commun 13, 814 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-28459-6



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