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折り曲げられる、やわらかい有機ELディスプレイ 3Dプリンタで一括作成可能Innovative Tech

» 2022年01月13日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米ミネソタ大学と韓国のKorea Institute of Industrial Technology(KITECH)、韓国の釜山大学校による研究チームが開発した「3D-printed flexible organic light-emitting diode displays」は、カスタマイズしたテーブルトップ3Dプリンタを使用し、有機ELディスプレイ(OLED)を完全に作成するシステムだ。ディスプレイ全体はシリコンで覆われているため、柔軟性が高く曲げても発光し続ける。

この手法で作成した64ピクセルの有機ELディスプレイの外観と、ディスプレイ上で「HELLO」の文字をスクロールした場合のイメージ図

 今回は一辺が約4cmで、8×8の64ピクセルの有機ELディスプレイを試作する。有機ELディスプレイの機能部品は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フレキシブルフィルム上に3Dプリントした6つの層になり、下から上に向かって、以下のような構成となる。

  • 銀ナノ粒子(AgNP)インクで印刷した底面の配線。
  • 導電性ポリマーであるPEDOT:PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の分散体)を薄膜状に配列したもの。
  • レクトロルミネッセンスポリマーであるMDMO-PPVの薄膜アレイ。電子と正孔の再結合により発光する活性層。
  • 有機ELの活性領域のみを陰極に露出させるシリコン系の絶縁層。
  • 共晶ガリウム-インジウム(EGaIn)液滴のアレイで、後に再構成されて上部の陰極構造を形成する。
  • EGaInアレイと密接に相互作用する上部インターコネクトのアレイで、端子コンタクトパッドを作成する。
有機ELディスプレイの層ごとの構造を示す分解斜視図

 これら異なる素材の6層を造形するため、2つの異なるインク供給方法(押出し印刷とスプレー印刷)を共通の3Dプリンタ上に統合する改良を行った。MDMO-PPV薄膜の成膜だけは、活性材料のインクを霧状にするスプレー印刷法を使った。押出し印刷の活性層と比較して、スプレー印刷は層の均一性が向上し厚さを制御できるからだ。

 有機ELディスプレイの性能は、活性層の均一性と厚さが影響するため、デバイスの信頼性と性能の向上に不可欠なアプローチといえる。残りの5つの層は、空気圧で作動する押出し印刷プロセスによって成膜する。

 今回は柔軟性が高い曲がる有機ELディスプレイを作成するため、シリコンの一種であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)で基材と6層を封止し仕上げた。

 陽極と陰極をそれぞれ同じ列と行に沿って電気的に相互接続した8×8の有機ELディスプレイは、2つの電極セットにデータとスキャンの信号が入力される受動的な方法で処理する。その結果、3Dプリントした有機ELディスプレイの全ての画素が正常に動作し、文字や画像などの情報をスクロール表示することが確認できた。

 曲げに対しての耐久実験では、2000回の曲げサイクルにわたって比較的安定した発光結果を示した。

曲げテストを行っている様子。曲げた状態でも発光する
ディスプレイを曲げた横からの視点

Source and Image Credits: Journal Article, Ruitao Su, Sung Hyun Park, Xia Ouyang, Song Ih Ahn, and Michael C. McAlpine “3D-printed flexible organic light-emitting diode displays” SCIENCE ADVANCES, 7 Jan 2022, Vol 8, Issue 1. DOI: 10.1126/sciadv.abl8798



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