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Wi-Fiで果物の中身を測定できる「Wi-Fruit」 切らずに腐っているか判定可能Innovative Tech

» 2022年01月26日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 中国の上海交通大学と深せん大学、廈門大学、カナダのマギル大学による研究チームが発表した「Wi-Fruit: See Through Fruits with Smart Devices」は、Wi-Fiを活用して果物の中身を外から計測するシステムだ。

 このシステムは、果皮が厚いもの(スイカやグレープフルーツなど)から、薄いもの(ドラゴンフルーツやリンゴ、ナシ、オレンジなど)まで幅広く計測でき、推定結果から内部の腐敗具合を判断できるという。

サンプリングのイメージ図

 外見は正常でも中身が腐っている果物は、外から見て腐敗の具合を判断しにくい。逆に外見は腐っているように見えても中身は正常な場合もある。果皮が分厚いスイカやグレープフルーツなどは、判断がより困難だろう。そこで、果実の水分量と可溶性固形分(SSC)を測定することで、中身をより理解できるようになる。

 これまで水分量とSSCの測定には、加熱乾燥して計測するペネトロメーターや真空オーブン、光の屈折から糖度を計算する屈折計を使っていたが、どれも破壊的で高額なものも多い。

 果実組織に照射した近赤外線(NIR)信号の吸収や反射、散乱度の違いから測定する分光器は、非破壊で性能も高いが、業務用は高額で管理された実験環境が必要、また携帯型は安価だが果皮の厚い果物では精度が落ちる。どれも手軽に計測できない。

 これら課題に挑戦するため、研究ではWi-Fiのチャネル状態情報(CSI)を活用した非破壊で低コストな果実水分およびSSC測定システムを提案する。果実の水分量やSSCは、果肉の誘電率や導電率と密接に関係していることは知られており、そのためWi-Fi信号も果実を透過する際に振幅や位相が変化する。

 この手法では、送信機にWi-Fiルーター、受信機に複数アンテナを含むPCやスマートフォンを使用する。この送信機と受信機間のLoSリンク上に配置したターゲットの果実を透過した信号により、相対的な振幅と位相の変化から電気特性を測定する。

 推定システムは、CSI前処理モジュールと果実水分・SSC推定モジュールの2つの主要なコンポーネントで構成する。前者のモジュールによる前処理を行うことで、受信信号のノイズを除去し帯域制限をクリアする。これにより、さまざまな種類や構造の果物や異なる環境に対する互換性を実現する。

 後者のモジュールは、センシング情報と視覚情報の両方を入力とし、3層の軽量ANN(Artificial neural network)を介して果実の水分およびSSCの測定値を出力する。入力のセンシング情報は、前のCSI前処理モジュールから取得。果実の大きさや形状、種類などの視覚情報は画像処理方法から取得する。これにより、果実の大きさや種類の依存性を除去する。

 プロトタイプには、送信機に汎用(はんよう)3アンテナWi-Fiルーター、受信機に2アンテナIntel 5300ワイヤレスカードを組み込んだノートPCを使用した。ルーターは802.11n APモードで5.24GHzの周波数、40MHzの帯域幅で動作する。またスマートフォンの内蔵カメラで果物の外見を撮影した。

プロトタイプの概要

 ターゲットの果物が送信機と受信機のLoSリンク上に置かれると、ノートPCがCSIを取得し、スマートフォンからワイヤレスで受け取った画像も含めターゲットの果実の水分量とSSCの値をノートPC上で計算する。

 実験では、スイカとグレープフルーツ、リンゴ、ドラゴンフルーツ、オレンジ、ナシの6種類の果実について、10日間毎日Wi-Fruitで水分とSSC値を推定した。

 その結果、基本的には果実の果皮が腐敗に近づくと、水分値、SSC値ともに減少を示した。しかし、ドラゴンフルーツなど一部の果実では、7日目に果皮が明らかに腐敗しているが、この日を境に水分値、SSC値がわずかに低下しただけで、カットしてみると、内部は腐敗していないことが分かった。

 これは、果皮が腐敗に近づいても中身は正常を意味しており、推定結果が良好なことを示した。果実の種類によっては、購入後まだ成熟過程にあるため、水分やSSCの値がいったん上がるものもあった。

Source and Image Credits: Yutong Liu, Landu Jiang, Linghe Kong, Qiao Xiang, Xue Liu, and Guihai Chen. 2022. Wi-Fruit: See Through Fruits with Smart Devices. Proc. ACM Interact. Mob. Wearable Ubiquitous Technol. 5, 4, Article 169 (Dec 2021), 29 pages. DOI:https://doi.org/10.1145/3494971



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