SYRINXの「Hitoe Fold」と、それをさらに先鋭化させた「Hitoe Fold Less」では、2つ折り財布を、薄さを保ったままどう留めるかについて、シンプルで効果的なアイデアを思いついた。そのおかげで財布としての使用感や機能を損なわずに、とてもスマートな形で薄い財布を実現した。何故そんなに簡単なことをと思うような方法なのだけれど、考えれば考えるほど、そう簡単に思いつけないモノだとも分かってくる。
その方法は、カードポケットの一部に切り欠きを作って、そこに折り畳んだもう一方の端に付けたフックを引っかけるというもの。
このスタイルは「インナーフック」という名称で、SYRINXが特許出願済みだが、これ、方法が本当にシンプルなだけに、特許の出願はとても重要だろう。そして、この方法によって、留め具による厚みの増加はほぼゼロになっている。さらに、単に革を折り曲げた状態で留まっているように見えるので、見た目がとてもスッキリと美しい。その上、表面に凹凸が全くないので、ポケットからの出し入れがとてもスムーズなのだ。
「Hitoe Foldを作る前から、薄い財布を作っていて、最初はジッパータイプの長財布や2つ折り財布を作っていました。現在も『Hitoe L-Zip』として長財布は販売を継続していますが、これらは、コインとカードを重ねずに薄さを実現するという方法を取っています。重なりがないから『Hitoe』なんです」と、SYRINXの代表であり、これらの製品のデザインを行っている、本職は建築デザイナーの佐藤宏尚氏。
最初の財布は、薄さを特徴とする財布には珍しく、厚手の革が使われているのだが、それにも理由があった。佐藤氏はもともと、自分が設計した建築や自分の事務所で使うための、ボディーが革でできたスピーカーを作っていて、その端材を捨てるのはもったいないというところから、革小物の製作を始めた。つまりスピーカーのボディーに使った厚い革を使うことが前提にあったわけだ。
革の厚みがあり、しかし内部は、コインとカードが重ならない薄く作ることができる構造なので、ジッパーで留めると、マチ幅がジッパーの幅だけの財布になり、デザイン的にも美しく、しかも最小限の厚みで作ることができた。当初の財布がL字ジッパーだということにも、きちんと理屈があるのだ。
「さらに薄い財布を作りたいとはずっと考えていました。ただ、3つ折りはエムピウさんの『ストラッチョ』があるし、薄さにこだわりたかったので、2つ折りのアイデアを考えていました」と佐藤氏。rethinkの守川氏と同じく、3つ折り財布としての「ストラッチョ」の完成度を高く評価している佐藤氏は、ある日、ふと、カードに引っ掛けるというアイデアを思いつく。
「ずっと考えていたからだとは思うのですが、本当に、ふと思いついて、その場で試作してみたら上手くいったので、これで2つ折り財布が作れると思いました。ただ、試作を妻に見せたら、『それは夏休みの工作?』と笑われたんですけど」と佐藤氏。
そこから細部を詰めるために、いくつも試作を作ったのだが、特許出願が通るまで外部に一切出さず、オフィス内で手作りしていたそうだ。ここまでシンプルなアイデアだと、慎重になるのは当然だろう。
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