先の研究で基本五味を制御できると分かったが、五味を個別、かつ同時に制御できるのではなく、一味ずつしか制御できない状態であった。例えば、酸味だけを強くできても、塩味と苦みを減らし酸味を強くした味を作る、というのはできなかった。
次に目指すのは、基本五味を個別、かつ同時に制御し、電気味覚で任意の混ざり合った新しい味を生成することだ。言うのは簡単だが、実装するのは容易ではない。
例えば、基本五味の電解質を全てコップに溶かしたとすると、コップの中で混ざるため基本五味が同じ強度で一度に変化してしまうため、目的の味は生成できないといったことが生じるからだ。
この課題に挑戦したのが、2020年に明治大学の宮下芳明教授が発表した「Norimaki Synthesizer: Taste Display Using Ion Electrophoresis in Five Gels」だ。
水溶液の代わりに基本五味の電解質をそれぞれ溶解し、チューブに入れて寒天で固めたゲルを作成、この5本のゲル同士が直接触れないように束ねて円柱型に組み立てるアプローチを提案した。このアイデアは、基本五味の混ざり合いを回避するだけでなく、舌にゲル5本を同時かつ容易に接触させた。
円柱型のデバイスを舌に当てると、人とデバイスによる回路を形成する。この回路に電気を流すと、ゲル内部のイオンが移動し舌の味蕾に当たるイオンの量が一部離脱し味覚が変わる。
各五味をスライダー操作で調整できるコントローラーも開発した。ゲル同士は分けられているため、各ゲルに異なる電圧強度が与えられ味を個別に操作できる。この操作で各味の割合を減算方式で制御し、任意の味の生成が可能となる。
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