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味をデジタル化する「電気味覚」の可能性(後編) 塩分制御システムやガム型デバイスなどの研究成果Innovative Tech(2/4 ページ)

» 2022年03月31日 12時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

電気味覚で塩分制御

 先の研究から、電気刺激によって食品の味を操作できると分かった。味が変えられるのであれば、塩味を増加させて余分な塩分摂取を防止できないだろうか。

 そう考え、電気味覚によって塩味を強く感じられるかを検証した研究が行われた。明治大学宮下研究室の研究チームが2013年に発表した「陰極刺激の提示と停止による塩味味覚感度制御」だ。

 このシステムは2009年発表の論文「Salt taste inhibition by cathodal current」の内容に基づくものだ。その内容とは、舌に陰極刺激を与えると塩味を阻害し、止めた後は塩味が通常よりもさらに強く感じられる生理学的効果を明らかにしたもの。

 この知見と、上述した人を回路の一部にする電気味覚提示システムを組み合わせる方法で、塩味を強く感じさせられるかを検証した。

提案システム時に想定される塩味知覚の変化

 システムは、飲食物を口に含んだ直後にその食材を介して陰極刺激の提示と停止を行う。実験を行うために、ストローを刺し込んだ飲料用装置と、フォークを改造した食料用装置の2種類を試作した。

ストローが刺し込まれた飲料用装置と、フォークを改造した食料用装置の外観。それらと人体を一部にした回路構成

 実験の結果、提示中と停止後で味質強度、塩味の強度に差が見られた他、元の食材の味質よりも停止後に感じる味質を強く感じる傾向が見られた。

 この結果は、新たに塩分を添加せずとも飲食物の塩味が強まったように錯覚させられることを意味する。そのため、このデバイスを利用することで塩味の物足りない食事でも新たに塩を振りかけるケースが減り、結果として塩分の摂取抑制につながる可能性を示唆した。

 塩分でいえば、2021年に明治大学宮下研究室の研究チームが発表した「TeleSalty」では、電気味覚を用いて飲食物の塩味をリアルタイムに伝え、遠隔でも同じ濃さの味を体験できる塩味通信システムを提案した。

 送信部で飲食物の塩分を計り、その塩分濃度のデータを遠隔の受信部に送る。受信部では、そのデータを基にした電気刺激を食塩水に与え、同程度の塩分濃度を再現する。

システムの利用イメージ

 プロトタイプは、塩分センサーで塩化ナトリウム濃度を計測し送信する送信部と、その濃度に基づき電気味覚によって同じ濃度を再現・提示する受信部で構成する。送信部には、マイコンボードとPC、塩分センサーを含んでいる。

送信部システム
送信部の概要図

 受信部には、紙コップに入った1.0%塩化ナトリウム水溶液、電源装置、PCなどを含む。電源装置に接続する電極2本は、一方は紙コップ内へ挿入(陰極)し、もう一方は被験者の手に貼り付ける(陽極)。塩化ナトリウム水溶液の摂取は、紙コップに入ったストローで吸飲する。

受信部システム
受信部の概要図

 今回はみそ汁で実験を行った。送信部の塩分センサーをみそ汁に挿入し、含まれる塩分濃度を計測する。塩分センサーによって溶液中の電気導電度を測定し、取得した電気導電度に基づき濃度を算出した上で、その塩化ナトリウム濃度のデータ情報を受信部に送る。

 塩分濃度のデータを受信部が受け取ると、制御に必要な電流量を計算し、電源装置から電流を出力する。ストローから塩化ナトリウム水溶液を吸飲すると、人を介した回路を形成し舌に電気刺激が付加する。

 実験では、0.2%、0.4%、0.6%、0.8%の塩化ナトリウム水溶液をランダムな順で提供し当てさせるタスクを行った。被験者3人の正解率は、37.5%〜62.5%とバラつきを見せた。その原因に塩分センサーの計測の不安定さ、電源装置の誤作動を確認したため、両者を改善すれば正解率が上がるという。実際に、両者の影響を受けていない正解率は約88%であった。

みそ汁に塩分センサーを挿入している様子

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