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味をデジタル化する「電気味覚」の可能性(後編) 塩分制御システムやガム型デバイスなどの研究成果Innovative Tech(1/4 ページ)

» 2022年03月31日 12時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 前編では、味のデジタル化使われる現象「電気味覚」の原理や利用方法などを紹介した。後編では、さまざまな角度から電気味覚の利用のアプローチを行った研究成果を紹介する。

電気や熱で舌に味覚を与えるデバイス

 シンガポール国立大学の研究チームが2012年に発表した論文「Taste change of soup by the recreating of sourness and saltiness using the electrical stimulation」は、人間の舌に電気的および熱的な刺激を与えることで、味覚をデジタル的に作動させるシステムだ。

舌先に電気味覚提示デバイスを接触している様子

 電気味覚提示デバイスは、電気刺激モジュールとペルチェ素子による熱刺激モジュールが搭載される。舌先に流れる電流の性質(電流の周波数や大きさ)や温度の変化(20度から35度の範囲)を利用し、味覚やその強さを効果的にコントロールする。電気刺激は、陽極と陰極の2つの電極を使用し、舌先へ提示した。

 システムの有効性を検証するため、被験者18人によるユーザー実験を行った結果、酸味(強)、苦味(弱)、塩味(弱)が感じられると分かった。甘味を感じられた割合は低かったが、熱刺激によって甘味を感じられる可能性を示唆した。

 また、複数の被験者がミントの味や爽やかな味(35度から20度に冷却した時)、わずかな辛さ(20度から35度に加熱した時)を感じたと報告している。さらには、3段階の強度で酸味をコントロールできると分かった。

 別の研究では、スプーンとスープの組み合わせで電気味覚を付加し味を変化させる手法「Taste Change of Soup by the Recreating of Sourness and Saltiness Using the Electrical Stimulation」を、法政大学小池研究室の研究チームが2015年に発表した。

 銀製のスプーンには電極が取り付けられ、食事をする瞬間まで回路は遮断されているが、スプーンが舌に触れると、体や電極などで回路を形成し舌に電気刺激が発生する。その際に、スープと同時にスプーンを通して電気味覚を舌に提示する。

 モータードライバーとも接続しており、電流の向きを制御し2つの刺激を切り替えられる。実験の結果から酸味には陽極、塩味には陰極が効果的と分かった。加えて、味の強さの増幅も示された。

電極を接続したスプーンでスープを飲む実験の様子
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