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味をデジタル化する「電気味覚」の可能性(後編) 塩分制御システムやガム型デバイスなどの研究成果Innovative Tech(3/4 ページ)

» 2022年03月31日 12時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

喉から電気味覚

 味覚研究の多くは、口腔内における味覚提示を対象としてきた。味覚の受容器である味蕾が舌や口腔内に多く点在するためだ。しかし味蕾は、舌や口腔内だけでなく咽頭や喉頭などの、いわゆる喉にも存在する。人は口腔内で味を感じるだけでなく、食べ物を飲み込む際に喉でも味を感じるわけだ。

 この考えから、喉に電気刺激(下顎部電気刺激)を与え喉の奥に味覚を提示できるかを検証する研究が登場した。大阪大学などによる研究チームが2017年に発表した論文「下顎部電気刺激による咽頭への局所的な味覚提示」だ。

 喉の奥へ電気刺激を与えるからといって、喉の中に電極を配置するのは侵襲性が高いため、このシステムでは顎の外側と首の後ろに電極を配置し、喉を前後で挟むセットアップを採用、安全性を確保した。

下顎部電気刺激の電極配置

 このようなセットアップで本当に電気味覚を提示できるかの実験を行った。複数の被験者に対し、何も食べていない状態で電圧を印加する。被験者には印加中に味がした場合にどんな味だったかを甘味、酸味、苦み、塩味、金属味の6つから選択してもらい、またどの辺りで感じ取れたかを示してもらった。

 結果は、約80%の確率で味覚の生起を示した。また生起した場所には喉付近を示し、感じた味は金属味が最も多かった。この結果により、非侵襲的な電極配置による下顎部電気刺激で電気味覚を喉の奥へ提示できると実証した。

 この提示方法を飲食中に行えば、その食品の味に影響を与えるだけでなく、“のどごし”という触覚を制御できる可能性も示唆した。

バッテリーレスで電気味覚

 これまでの電気味覚の研究は、いずれも電気を外部から供給する必要があり、有線で給電するか、バッテリーを内蔵するものであった。有線は煩雑であり、バッテリーを口腔内に設置する場合、利用時間の短さだけでなく誤飲による人体への影響も懸念される。

 この課題に挑戦するため、明治大学の研究チームは2018年、有線やバッテリーを必要としないガムのように噛んで発電させ電気味覚を提示するシステム「無限電気味覚ガム:圧電素子の咬合を用いた口腔内電気味覚装置」を発表した。かむ行為を電力に電気味覚を誘発する仕組みだ。

 かむと発電する仕組みを構築するため、研究チームは圧力を加えると電気が生じるセラミックを主成分とする圧電素子に着目し、この圧電素子を電源として半永久的に動作する電気味覚装置を作成した。

圧電素子を利用した味覚提示装置

 プロトタイプでは直径15mmの圧電素子を利用し、唾液や口腔接触によるショートを防ぐため、プラスチックフィルムによるラミネート加工を行い、そこへ陰極と陽極の両方を接続した。被験者にプロトタイプを奥歯でガムのように噛んでもらった結果、味覚提示に必要な電流の強さを満たす数値が得られた。また噛んだ瞬間と離した瞬間に苦味と金属味が感じられ、味覚提示の有効性を実証した。

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