このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
スペインのUniversity Carlos III of Madrid、イランのShahid Rajaee Teacher Training University、イランのInstitute for Research in Fundamental Sciences (IPM)による研究チームが開発した「ECGsound for human identification」は、心電図から取得した心拍音を分析し、その人が誰かを特定するバイオメトリクス技術だ。心電図(ECG)信号をオーディオ波形ファイルに変換し、5つの音楽的特性を分析することで識別する。
今回はこれまでと違い、ノイズ(直流成分や呼吸など)を除去した後に、一時的な信号である心電図の記録をオーディオ波形ファイルに変換し音楽的特徴を分析する。
抽出する特徴は、5つの音楽要素(ダイナミクス、リズム、音色、ピッチ、調性) に従う。音楽におけるダイナミクスとは、音の大きさ(メゾフォルテからフォルティシモまで)や柔らかさ(メゾピアノからピアニシモまで)を示し、リズムは音の長短を示す。
音色は、特定の楽器や声が持っている特定の品質で、この品質を決定するためにスペクトルやエンベロープ分析を使用する。ピッチは、振動数によって音を分類する(例えば、850Hzは高いピッチに相当する)。調性は、楽曲が中心音(主音)を中心に構成されているという考えと結びついている。
抽出したこれらのインスタンスを分類器に与える。今回はマルチクラス分類器とバイナリ分類器をテストした。結果の再現性を保証するために、一般によく知られているデータセット(MIT-Bih Normal Sinus Rhythm Database)を採用した。18人の被験者を対象にした実験により、96.6%の精度と、FAR0.002とFRR0.004の低いエラーレートを示し、その有効性を示した。
心拍によるバイオメトリクスの主な利点は、識別の普遍性にある。既存のバイオメトリクスでは、けがや切断、身体的特徴のために、ある種の生体認証で認識できない人もいるが、心拍は例外なく全ての人間に存在する。心拍の停止もないので、いつでもどこでも即取得できる利点もある。
低コストで非侵襲的であることも利点の一つといえる。近年では、スマートフォンやスマートウォッチ、E-テキスタイルなどのデバイスで気軽に心拍を収集できるからだ。
この手法はまだ研究段階とし、さまざまなノイズを考慮しなければならないという。例えば、走る、運動をするといったストレスの多い状況でも正確に分析をしなければならない。
人間は年齢を重ねるにつれて心臓の信号がわずかに変化するため、5年間更新などの対処が必要となる。さらにペースメーカーの使用や不整脈の影響などの要因も考慮しなければならず課題も多いという。
Source and Image Credits: Carmen Camara, Pedro Peris-Lopez, Masoumeh Safkhani, and Nasour Bagheri. “ECGsound for human identification” Biomedical Signal Processing and Control, Volume 72, Part B
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