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偏りのない「感情認識AI」が目指すウェルビーイングな社会とは?プラマイデジタル(2/2 ページ)

» 2022年04月05日 16時47分 公開
[野々下裕子ITmedia]
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気持ちのいい対応ができるAIが欲しい

 AIに感情を認識させ、分析しようという研究や技術はかなり以前からあり、日本でも数多くのプレイヤーが参入している。AIポータルメディア「AIsmiley」を運営するアイスマイリーは、2021年2月に「感情認識AIカオスマップ」を公開しており、そのプレスリリースの中で感情認識AIは以下の4つに分類できるとしている

  • テキストの感情認識AI
  • 音声の感情認識AI
  • 表情の感情認識AI
  • 生体情報の感情認識AI

 テキストの感情認識AIは、単語の使い方や文体から感情を解析するが、最近は声を音声認識でテキスト変換する方法も用いられている。音声の感情認識AIは、声の抑揚や強さに注目して分析を行う。表情の感情認識AIは主にカメラで顔を認識した上で、感情を分析するというもので、Hume AIをはじめ世界で開発競争が激化している。さらに呼吸、汗、心拍、脳波といった生体情報による感情認識AIを組み合わせることで、感情認識の精度を高めようという研究も進んでいる。

 分析の根拠となっているのは心理学や認知学などの研究で、メンタリストのテクニックとしても知られるものだ。そこにAIを用いて、人が感じ取れないような細かなしぐさや変化までも読み取り、コンピュータで高速処理することで人間の理解を高めようというところに、巨額の投資が行われている。

 背景には日々の生活でAIと対話する機会が増えたことも影響していると考えられる。SiriやAlexaなどの音声アシスタントを使うのはもはや当たり前だし、企業サイトでチャットボットを目にすることもめずらしくない。そこで質問する相手が生身の人間ではないとわかっていても、人らしい反応を期待するし、気持ちにぴたりと合う対応をされれば高感度も上がるものだ。

 感情認識AIは世界のコールセンターで採用が進み、人間よりも的確な回答で客が電話を切るまで対応できるプログラムが求められている。他にもECサイトの販売サポートやマーケティング、メンタルヘルスをケアするアプリ開発などに向けて、感情認識AIの開発は加速している。

 日本が得意とするバーチャルキャラクターもこうした感情認識AIの進化で急速に成長する可能性がある。バーチャル空間がとてもにぎわっていると思ったら、半分以上が感情認識AIを持つバーチャルキャラクターだったということにもそのうちなってくるかもしれない。

AIはどこまでなら人に近づけていいのか

 一方で感情認識AIの開発に懐疑的な声も少なくない。

 SXSWとは別にHume AI のビジネスモデルをプレゼンするビデオの中でコーエン博士は、「笑い」「驚き」などの表情を見せる異なる文化圏の人たちの顔を並べ、細かな違いを解析した感情のマッピングなようなものを作成していることを見せた。あくまで科学的な分析であることを説明したのだが、プレゼンを見た人たちの中には「AIに感情認識させることを神学者に相談したのか?」という質問をする人もいた。

 それに対しコーエン博士は、倫理的な対策を研究する「The Hume Initiative」と名付けたNPO組織を設立し、感情認識AIに伴う倫理的な課題について研究を行っていることを紹介した。

 メンバーには感情認識AIやその倫理面に関する専門家をはじめ、共感型AIを追求するGoogle Empathy Labの創設者らが参加し、アルゴリズムの公平性について議論している。感情認識AIの開発や利用を進めようとしている企業や組織に向けた倫理ガイドラインも無料で公開しており、新たな社会課題にならないよう対策を進めている。

 また、どういう技術なのか詳細は不明だが、Hume AIのプラットフォームを使用してSNSの投稿からユーザーの気分を測定し、アルゴリズムで調整して改善することを提案ようなサービスも考えていると語っている。

 Hume AIの活動は最近オープンになったばかりで、これからいろんな所で目にする機会が増えるだろう。「昔の彫刻からも感情は読み取れる」というコーエン博士のAIが、どのような進化を見せるのか注目したいところだ。

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