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「私を忘れないで」──コロナ禍の“記憶”を保管するデジタル技術ウィズコロナ時代のテクノロジー(2/3 ページ)

» 2022年04月06日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

記憶に残すためのデジタル技術

 ロンドンにあるセントポール大聖堂が開設したのは、その名も「Remember Me」(私を忘れないで)というWebサイトだ。

セントポール大聖堂が開設したWebサイト「Remember Me」

 これはCOVID-19犠牲者の家族や友人が、故人の思い出を書き込むことのできるWebサイトである(投稿に当たっては名前とメールアドレス、パスワードの入力が求められ、また投稿できるのは一人当たり1件の制限が設けられている)。

 投稿され、内容確認の上で掲載された投稿は他の訪問者も閲覧でき、今回のパンデミックがいかに一人一人の人生に大きな影響を与えたのかを実感させられる。現時点で投稿の数は、およそ1万件に達している。

 さらに投稿された内容は、公式TwitterおよびInstagramのアカウントでもシェアされると同時に、大聖堂内に設置されたインタラクティブなディスプレイ上でも閲覧できるようになっている。

 これは追悼の意味合いが強く、また教会という伝統的な宗教施設によって進められているプロジェクトだが、より記録という観点から情報を集めることに取り組む活動もある。

 カナダ・サスカチュワン州の州立大であるサスカチュワン大学は、「COVID-19 Community Archive」というプロジェクトを立ち上げている。これは同大学のアーカイブ部門が医学・公衆衛生学の歴史を専門とする教授陣と協力し、コロナ禍における個人の経験を記録することを目的として実施しているもので、一般の人々に投稿を呼び掛けている。

 プロジェクトのWebサイトは、そうした経験を集めることの意義について、「COVID-19パンデミックが私たちの社会をどのように変えたかを研究する教員や学生、ジャーナリスト、歴史家、作家などの研究者にとって、貴重な資料となるだろう」としており、ソーシャルメディアに投稿したテキストや写真、動画、電子メールの文章、ブログの投稿、日記などさまざまなメディアでの投稿を受け付けている。

 実際に、南アフリカのケープタウンに住む女性から寄せられた投稿では、パンデミックによって2人の孫たちと物理的に交流することができなくなってしまい、iPadと手作りの木製スタンドを駆使して、リモートで孫たちと遊ぶようになったという話(そして実際の様子を収めた写真)がアップされている。

 別の投稿では、カトリック教会のミサまでもオンラインで行われるようになったことが語られており、まさにいま私たちが経験している日常の変化の貴重な記録となっている。

 こうした研究を目的とした各種デジタルコンテンツの記録は、他の公的機関や研究機関でも行われており、ロサンゼルス公共図書館はロサンゼルス住民にデジタルコンテンツの投稿を呼び掛けている。面白いことに、絵画や詩などの芸術作品もOKだそうだ。

 当然のことながら、新型コロナウイルスによって直接的なダメージを受けていなくても、私たちは日常的に大きな苦労を強いられている。これまでであれば記録に残されなかったであろう、しかし時代の空気を正しく伝える上で重要となるささいな情報が、デジタル技術によって多くの人々の手で残されるようになった。それを広く集め、アーカイブしようというこうした試みも、後世の人々にとって大きく役に立つものとなるだろう。

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