2人の課題感から立ち上がったアドボカシーユニットは、設立から21年12月までに14件のイベントを開催。20〜30人規模で定期的に行うオンラインイベント「PARK mini」など、これまでSmartHRで実施していなかった形式のイベントにも挑戦したという。
イベントの開催を通じて、いくつかの成果も挙げている。例えば、SmartHRのオウンドメディアがユーザーを対象に行っている事例取材の承諾数は、20年の3〜4倍に伸びた。これまでは年30〜40件程度しか許可を得られていなかったが、イベントをきっかけに許諾が取りやすくなり、21年には130件以上になったという。
前向きな効果は他にもあった。長期間SmartHRを利用しているユーザーが導入直後のユーザーに使い方や機能についてレクチャーする場面が見られるようになり、カスタマーサクセスの負担削減につながったという。
ただし、これらの施策が解約率などビジネス上の指標にどんな影響を与えているかは、効果を客観的な数値で評価しにくいこともあってまだ検証中だ。現在は、どういう指標を追うべきかと併せて検討している段階という。とはいえ、大まかな方針は決まりつつある。
「経営陣からは『目先の利益ではなく、先々の文化や資産を作るのが仕事だから、そういうものを作りなさい』といわれている。指標については『コミュニティーを通じて成功を得られるユーザーがどれくらいいるのか』をベースに考えていきたい。まだ0から1への段階なので、より大きくなってきたときには売り上げにつながる指標を設定しやすくなるかもしれない」(大久保さん)
SmartHRがユーザーコミュニティーに取り組む背景には、同社が注力する人事労務という領域の特性もある。大久保さんによれば、人事労務の担当者は社外と交流する機会が少なく、“横のつながり”を形成しにくい環境にあるという。
人によっては公にできない悩みを抱えてしまうことも多く、孤独と感じてしまうこともある。一方で、孤独感や共通の課題感が多いからこそ、ユーザーコミュニティーとの相性が良く、ユーザー間での情報共有が活発になりやすいという。
逆に、アドボカシーユニットが苦労している点もある。篠原さんによれば、イベント開催などで他部門との協力が必要にもかかわらず、施策の効果を定量評価しづらいことから、社内の理解を得るための工夫が欠かせないという。
例えばイベントに出席したユーザーから前向きな意見があれば、Slack内で社内に発信し、“味方作り”につなげている。とはいえ、経営陣などからは理解を得られているので「比較的やりやすい状況ではある」(大久保さん)という。
SmartHRが進めているようなコミュニティーマーケティングは「たき火」に例えて説明されることが多い。まずは燃えやすいものに点火して種火を作り、燃えてきたら、そこへ徐々に薪をくべて火を大きくしていく。2人によれば、SmartHRにおいてはイベントが種火に、今後リリースする予定のオンラインコミュニティーサービスが薪に当たるという。
オンラインコミュニティーサービスを提供できれば、ユーザー同士が非同期で交流できるようになり、活動のログも残る。アクティブユーザーやイベント参加状況など、客観的な指標も得やすくなり、効果検証と改善のサイクルも回しやすくなる見込みという。
「まだ作っている途中ではあるが、オンラインコミュニティーで熱を高め、再びイベントをやって盛り上げていくサイクルを作りたい。今は投資対効果をどう見ていくか考えながら動いている段階なので、今後はその辺りも設計できれば」(大久保さん)
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