先日、SNSでメモの取り方についての議論を見かけた。メモをまとめる速度が話の進展に間に合わない……という点についてのものだ。
確かにそういうことはあるだろうが、筆者はそれを見ながら「メモを完璧にとる、その場で完成させようとしているからではないか」という印象を受けた。
「メモをとる」のは日常的な作業だ。その量や内容はまちまちだろうが、誰もが行うことだ。メモ用紙やPC、ペンなど、「何を使ってメモをとるのか」という話はよく話題になる。
一方で、なぜメモを取るのか、メモをどうすべきか、という点については、あまりちゃんと議論されていないように思う。
さらにいえば「どの道具でメモを取るのか」も、メモの活用方法によって大きく変わってくる。
筆者はライターという、日常的に大量のメモを取り、それを生かして何かを作る仕事をしている。だから、多少なりとも「メモとは」という話をするだけのノウハウは持っていると思っている。
今回は「なぜ」「何のために」まで戻った上で、メモのためのテクノロジーを考えてみよう。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2022年4月11日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
そもそもメモは何のためにとるのか?
いうまでもなく、メモなしでは覚えておけないことを、確実に残しておくためだ。
メモする際、その場の情報をあますことなく記録できるなら話は簡単だ。だが現実問題として、それは不可能な場合が多い。結局、必要な情報を脳内で整理しながら残すことになるだろう。
問題は、そうやって「ある程度精査した情報を残したメモ」とは、どんな存在なのか、ということだ。
繰り返しになるが、メモはメモであり、その場で完璧なものを作るのは難しい。「メモをきれいに残す」ことは重要だが、それよりも、必要な情報を残し続けられることの方が大切だ。
筆者はタイプでメモをとるが、それでも全部をちゃんと残しているわけではない。キーワードと数字、印象深い言葉などを残すことに注力している。タイプミスや変換ミスもあるが、無理に修正して次の言葉を聞き逃すくらいなら、そのままタイプしてしまう。
取材メモには秘匿すべきものも多いので直接お見せするのは難しいが、メモとして、そのまま原稿になるものではない。
アイデアを書き留めるときもそうだ。断片を書いているだけの場合が多く、それがちゃんとした企画書や原稿の元になることは少ない。
原稿を書く場合には(原稿の長さによって精度は違うが)内容をまとめ直し、原稿の構造を組み立ててから書き始める。書籍などの長い文章になると、アイデアをマインドマップツールなどでまとめ直すことも多い。
すなわち、メモは素材であり、そこからの作業をスムーズにするための要素である。だとするならば、「メモを取る作業を楽にする」「素材としての価値を高くする」ことが重要、ということになるだろう。
現在は録音から自動的にテキストを起こすことも可能になってきている。タイプの手間を減らすという意味で、AIを使った自動書き起こしはとても重要なものだ。何度も記事にしているが、筆者も積極的に使っている。
だが、自動書き起こしがあるからといって、メモが不要になるわけではない。
資料をもらえる場合、それに頼ってメモはしない、という人も見受けられるが、同様な意味で、これもちょっと違うかな、と思う。
自分で「書く(タイプする)」ということが、理解や認識にプラスに働くのは間違いないからだ。
録音や自動書き起こし、資料があった上で「印象に残った部分」をメモとして残し、そこからの確認とまとめ直しに使う、というのがベストだろう、と考えている。
これは、学校で学ぶときに板書とノートがどういう関係なのか、という点に似ている。
板書をそのままコピーできたとしても、結局それを見るだけでは学習効果は高まらない。さらにまとめ直す、自分で書くというプロセスを経て脳に定着する部分が大きいのではないか。
最終的に何を目指しているのかで、どこまでやるべきかは変わる。
シンプルな報告書を作るだけなら、情報があるならメモは最低限でいいかもしれない。むしろ、情報自体を共有することの方が重要だ。自動書き起こしのようなテクノロジーは、自分で使うとき以上に、他人と情報を共有するときに便利になる。現状、日本語での書き起こしは制度に不満が残るものだが、技術の進展を考えると、遠くないうちに、「ところどころおかしいが概要を把握できる」くらいにはなるだろう。
一方で、情報からなにかを理解する・見つけ出す・学ぶなどの目的があるなら、自分で見直す・まとめ直すというアプローチが必要になるだろう。
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