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乱立するメタバース関連団体 養老氏率いる「メタバース推進協議会」に“不思議さ”を感じるワケ(1/4 ページ)

» 2022年04月22日 13時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 4月18日、一般社団法人「メタバース推進協議会」が記者会見を開き、協議会設立に関する経緯の説明や、活動内容を公開した。

 2021年末以降、メタバースには急速に注目が集まっている。その関係からか、日本国内だけでも、筆者が把握できる限り、すでに4つの関連団体が作られ、乱立との指摘もある。

 メタバース推進協議会はどんな目的を持って作られたものなのか、会見に参加した筆者の視点から考えてみた。

養老氏・隈氏・廣瀬氏の考える「メタバースの課題」

 メタバース推進協議会はそうそうたるメンバーで構成されている。

 代表理事に東京大学名誉教授の養老孟司氏。特別顧問には、東京大学特別教授で建築家の隈研吾氏、東京大学先端科学技術センター名誉教授で、日本バーチャルリアリティ学会特別顧問の廣瀬通孝氏が就任する。常任理事は、元観光庁長官で現大阪観光局理事長の溝畑宏氏、元衆議院議員の木内孝胤氏だ。

メタバース推進協議会・会見でのフォトセッションより。代表理事の養老孟司氏を中心に、顧問・常任理事などが顔をそろえた

 会見にはこれらのメンバーが顔をそろえ、狙いを説明した。

 養老氏は「私はこの場に一番似合わない人物かもしれない。メタバースとは何の関係もない」という。だが、続く言葉を聞けば、代表理事に就任した理由も分かる。

代表理事を務める東京大学名誉教授の養老孟司氏

 「しばらく前から、ラオスで森の保全に関わっています。若い人に現地の様子を知ってほしいけれど、今の状況では帰ってこれなくなってしまう。そこである若い人が『メタバースを使えばいいのでは』と。そういうものがあるのだな、と思いました」(養老氏)

 「今は、ものすごい勢いで自然が変わっています。昆虫が減っている。50年前の山の様子は、もう見ることができません。でもメタバースのようなもので今の様子をきちんと紹介できれば、50年後にも今を見直すことができるのではないか。戦後すぐ、飛行機から撮った写真は今でも非常に参考になっています。そういう基礎的なデータとしてメタバースが使えるのではないか。お金になるかどうかは、私には分かりません。ですが、ドキュメント性にはいい。ですので、なにかお手伝いができれば、と思っています」(養老氏)

 隈氏は「最近はメタバース内での建築の依頼が多く寄せられる」と話す。

特別顧問を務める、建築家の隈研吾氏

 「建築というのはいろいろな『悪さ』をするものです。資材の問題もありますし、周りに陰を落としてしまうこともあります。リアルな、現実の建設は悪さをするものです。メタバースに置き換えられたら、そういう悪さをしないで済むかもしれない。建設の中でリアルに必要なものとメタバースとはどう関係するのか」(隈氏)

 「今、メタバース内での建築依頼はどんどん来ているのですが、正直迷うところがあります。予算(のルール)がない。普通は『坪いくら』といわれるのですが、メタバースだと言われない(苦笑)。建築基準法も消防法もない。これ、どういう風に設計したらいいんだろうか。これは非常に面白いテーマだと思っています。本当に課題は山積み。ぜひそういう世界を制していくプラットフォームになったらいいと思っています」(隈氏)

 もう一人の特別顧問である廣瀬氏は、1990年代以降、日本のVR研究をリードしてきたキーパーソンの1人である。

もう一人の特別顧問、東京大学先端科学技術センター名誉教授の廣瀬通孝氏

 「メタバースがいろいろな可能性を秘めているのは、ご存じの通りです。30年前からVRを研究している中で、ある人が『われわれは新大陸を発見したようなものだ』と言いました。新しい発見のためのフロンティアでは、最初に規制などを考えるのではなく、いろいろと動いてみるべきだ……といったことを議論したのを思い出します。メタバースによって、ある意味において新大陸が姿を現してきたのは事実かと思います」(廣瀬氏)

 「VRとメタバースはどこが違うのか、とよく聞かれます。VRは一人の人間が面白く体験する、非常に個人的なものです。メタバースはいろいろな人がたくさん入ってきてコミュニティーを作り、いろいろなものの交換が始まっていくので経済的なものを考える必要が出てきます。そうすると、トンガったデジタル技術、VRだけでいいのか、という議論が出てきます。瞬間的に面白いものだけでなく、ずっと長く続くものも考えなければいけない。すなわち、今までのVR技術だけではうまくいきません」(廣瀬氏)

 「私は、メタバースはDX(デジタルトランスフォーメーション)とVRの結婚なんじゃないか、と思っています。メタバースにいろんな方々が入ってきて、いろんな方達の中で調停をとっていくべきで、そういう意味で、推進協議会のような役割を持つところで議論が進むことを、技術をもつものとして大変期待しています。勉強させていただきたい」(廣瀬氏)

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