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GIGAスクールのiPad授業、実際はどんな感じ? 墨田区錦糸中学校が実践していること(2/4 ページ)

» 2022年04月26日 14時58分 公開
[弓月ひろみITmedia]

教師主導からの変化

 授業後、和田浩二校長に錦糸中学校の取り組みについて話を聞いた。

photo 和田浩二校長

 和田校長は大田区で11年、千代田区で8年、品川区で3年、墨田区では15年目。墨田区ではiPadを使ったICT教育が始まる際、3人に1台のiPad教育モデル校として2年間取り組んできた経歴がある

 和田校長によると、現在、錦糸中学校は1年生2クラス、2年生3クラス 3年生2クラスの7学級で全校生徒は194人。東京都の情報教育研究校であり、墨田区の研究協力校として2年間ICT教育の研究に取り組んでいる。

 「GIGAスクール構想」の実現に対しては、令和2年(2020年)から準備を進めてきた。“子供たちに対して、未来への夢や希望を持つ”授業を展開することを重点目標とし、3年生では高校大学、社会へを見つめて自分の希望を考えるよう組み立てていると和田校長。指導の甲斐あって、かなりの生徒がやりたいことを見つけられていると実感があるという。

 東京都の研究校としてiPadを使うにあたり、最初に先生方に伝えたことは「とにかく授業で使う、iPadを持って授業に取り組む精神を持つこと」だった。

 各々の教科で使うことだけを先に考えると、先生同士で技量を高め合うことが難しくなる。

 同校では学活・道徳・総合学習など、全教員が行う授業から使い始め、ロイロノートスクールで共有することにした。また、和田校長によれば、“錦糸中学校の先生方は非常に仲良し”で、研修に参加したあとも自然と授業の方法を教え合い、学び合う姿勢を持っているそうだ。

 「理想の授業のためにどうすればいいのか。考え合い学び合う先生方の姿を生徒達に伝えています。また、iPadの操作は、子供たちの方が覚えるのが早い。だからこそ、分からなかったら生徒に教わりましょうと。正直に“先生、ここが分からないんだけど”といえば、生徒達が教えてくれる、そうやって教師と生徒が助け合いながらiPadを活用した授業を進めてきたんです」

 こうしたiPad学習が始まるまでは、どうしても教師主導の授業になりがちで、一方的に教師が話して終わる授業も多かったが、今では“1人1人が学習内容を理解し、それを利用しながら新しいものを見つけ出していくような授業”へと変化していった。

 ただ、和田校長には、文部科学省が提唱する(タブレットなどを使った)新学習指導要領にある“主体的・対話的で深い学び”について、どうアプローチすべきか、悩んでいたときもあったという。

 「教育学の資料を調べたり、ICTに堪能な先生達の研究会に参加するなど模索していた際、田中康平先生から、タキソノミー(学習目標分類)という考え方を教わりました」

  田中康平氏はNEL&M代表で、教育ICTデザイナー。和田校長は墨田区で開かれた教員のための研修会講師として出会った。このタキソノミーの考え方を示した表で指針がはっきりし、先生達の意識が変わってきたという。

 「記憶する、理解するまでは今までやっていたことと変わりませんが、応用する・分析する・評価する・創造するという領域はなかったんですね。先生方は、この指針に従って、学習の段階を決められるようになりました。ICTの活用方法が具体的に明示されているので、次回はプレゼン、次は分析まで行こう、というアイデアが、先生方から出てくるようになりました」

photo 田中康平氏によるタキソノミーの指針。これが指針となっている

 こうしたタキソノミーを使った学習方法は、最初は道徳や学活など総合の分野で取り入れた。それを続けながら、担当する専門の教科へ応用する形で移行。2021年の10月から12月にかけて、全ての市区町村に向けて公開授業の招待を行い、教師120名、校長30名が来校し、高い評価を得た。

 次の課題は、授業のさらなるレベルアップだ。和田校長は、生徒のアウトプットと振り返りを重点に置いた。

 「インプットの授業のみだった場合、宿題としてアウトプット用の課題を用意するとか、1時間目はインプット・2時間以降はアウトプットにするなど、先生方に工夫をお願いしています」

 例えば今回の社会科授業のように、子供がグループで1つの課題を解決する形を目指し、少しずつレベルアップを図る。それが単なるルーティンにならないよう、最後に定着したかどうかの振り返りの時間を設ける。その振り返りに使っているのが、Appleの「スクールワーク」アプリだ。スクールワークは、生徒と教師用のアプリで、教師や生徒同士の共同制作、制作物の提出、進捗状況の確認が簡単に行えるというもの。

 「現在は先生方と協力しながら、インプット・アウトプットから、スクールワークで振り返るという授業の流れを作っています」

photo スクールワークで学習の振り返りを行う生徒

 来年度はもっと、先生達のレベルアップにつなげていきたいと和田校長は話すが、日常的な教師同士の学習はどのようなタイミングで行っているのだろうか。

 「職員室では、先生同士が常にオープンに会話しています。どうしたらいいだろうかとつぶやくことで、 職場の誰かが拾ってくれたり、助けてくれるんですね。その他に校内研修も行っています。最近もスクールワークの活用法をやったばかりですが、共同編集や振り返りフォームについて、普段の会話の中で教え合ったり、疑問を解決しています」

 時には校長自ら、Microsoft Teamsで情報を送ったり、参考書籍も提案しているそうだ。

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