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マネフォが楽天銀行とのAPI連携を解除しなかったワケ 背景に隠れた「SaaSならでは」の戦略

» 2022年04月28日 10時00分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 楽天銀行とのAPI連携を解除する──クラウド会計ソフト「freee会計」を提供するfreeeが1月24日に発表したこの方針は、ユーザーや周辺企業に波紋を呼んだ。Twitterではユーザーから「他のサービスに切り替える」といった声や「API利用料の値上げが原因か」といった臆測が見られた他、競合のマネーフォワードにも「楽天銀行との連携を解除するのか」といった問い合わせが相次いだという。

 事態を受け、マネーフォワードは同日に楽天銀行とのAPI連携を解除しない方針を表明。ITmedia NEWSがマネーフォワードの山田一也CSOに詳細を聞いたところ「コストメリットも考慮しつつ、なるべくAPI連携を解除しない方針を取っている。今回もその方針に沿って判断した。ただ、今回の件で『API連携解除でこれまで通りサービスが使えなくなる』前例ができ、ユーザーに不安が生まれたのは残念」との回答が得られた。

photo 山田一也CSO

 さらに、同社がAPI連携を解除しない方針を取る理由についても話を聞けた。背景には、マネーフォワードが推し進めている取り組みが関わっていた。

「自社サービス内で事務処理を完結」 マネフォが目指すビジョン

 マネーフォワードがAPI連携の解除を避けるのは、UX改善によるクロスセル向上などを見込み「自社サービス内でバックオフィス業務を完結できる状況」に向けサービスの開発や更新を進めているからだ。

 例えばクラウド請求書管理ツール「マネーフォワード クラウド債務支払」では、API連携やスクレイピングを活用し、ユーザーがメールで受け取ったPDF形式の請求書を自動でツール内に取り込める機能を2021年11月に追加している。これにより、ユーザーがいちいちメールの添付ファイルをダウンロードし、それをツールにアップロードし直す手間を省いているわけだ。

photo マネーフォワード クラウド債務支払の請求書取り込み機能のイメージ

 同時期には請求書作成サービス「マネーフォワード クラウド請求書」とのAPI連携機能も実装。クラウド債務支払では通常、請求書ファイルに書かれた支払先、支払期日、請求金額といった情報は、AI-OCR技術で書き起こし、ツール内に保存する。

 一方、クラウド請求書で作ったファイルの場合は、入力された情報をAPI経由で受け取ることで、転記ミスを減らしているという。

新事業でも重要なAPI連携

 API連携を巡る方針は、2021年2月に設立した新会社マネーフォワード i(東京都港区)を通して提供しているSaaS管理サービス「マネーフォワード IT管理クラウド」にも反映している。

 SaaS管理サービスには競合としてメタップスの「メタップスクラウド」やラクスルの「ジョーシス」がある。マネーフォワードは、他社製サービスとの差別化に当たって「API連携などの拡大による管理可能なSaaSの拡充」「自社サービスとの連携」を挙げている。

 このうち、外部との連携拡大については他社も積極的に取り組んでいる。一方で、自社サービスとの連携はマネーフォワード独自のものだ。自社サービスとの連携が見込める領域について「ベンダーにクレジットカード決済などで料金を払ってSaaSを使っている会社も多い。今後あり得る展開としては、各SaaSベンダーと連携して、この経費精算を管理する仕組みも考えられる」と山田CSO。

 仮にこの仕組みが実現すれば、外部とのAPI連携の重要性はさらに大きくなる可能性が高い。話題の発端となった楽天銀行とのAPI連携維持についても「一部の銀行だけ接続できない状況は不便を感じるユーザーが多いと判断した」(山田CSO)としており、一連の展開も考慮しつつ判断したとみられる。

「SaaSの良さを最大限に生かす」 マネフォのデータ活用戦略

 自社のサービス内でバックオフィス業務を完結できる状況に向け、サービスの開発やアップデートを進めるマネーフォワード。一連の取り組みの背景には、SaaSならではの強みをより強化するため、社内に蓄積したデータを活用する戦略がある。

 「オンプレミス型のサービスとSaaSの本質的な違いは、サービス上に蓄積したデータにベンダーがアクセスできるかどうか。SaaSの良さを最大限に生かすためには、蓄積したデータの利活用が欠かせない」(山田CSO)

 データを集めるには、ユーザーの同意を得た上で、なるべく多くの業務を自社サービスでこなしてもらう必要がある。そのためには、API連携などをなるべく維持し、外部に逃さない仕組みを保ちたいわけだ。集めたデータは、主にフィンテック分野で活用する方針という。

photo 提供予定の後払い機能のイメージ

 例えば事業向けプリペイドカードを発行する「マネーフォワード Pay for Business」では、経費精算サービス「マネーフォワード クラウド会計」で集めたデータを基に与信審査を行い、結果に応じてカードに後払い機能を付与するサービスを今夏をめどに提供予定だ。

 後払い機能は、通常の金融機関では限度額の低いカードしか作れないスタートアップ企業などの利用も見込むという。収益は決裁手数料から得る計画だ。

 「蓄積しているデータの使い道としては、やはりファイナンシャル系のサービスが相性がいいと考えている。SaaS×フィンテックの展開をこれからやっていきたい」

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