ITmedia NEWS > 社会とIT >

「Web上に記事が残らない」ことは何が問題なのか(2/2 ページ)

» 2022年04月28日 13時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
前のページへ 1|2       

「インターネット・アーカイブ」も万能ではない

 とはいえ、Webメディアの記事が、すべてずっとネットにあるか……というとそうではない。

 「過去記事を見せる」ことをWebメディア側がマネタイズの方法として使っている部分もあり、オープンなアーカイブからは、一定期間が経過すると消してしまうことも多い。

 現在Web上にある記事は、「記事を作ったメディア」だけが使うものではない。さまざまな他メディアに転載され、そこで初めてその記事を目にする人も多い。「Yahoo!ニュース」はその代表格だが、いわゆる「ブログメディア」に引用された記事を見て知る、という人も多い。そうした「転載系」の記事は、一定時間が経つと消えたり、メディア側の事情で掲載されなくなったりする。

 だから、「メディアがなくなるけど記事は残せ、ということにこだわる意味はない」という見方もできるだろう。

 ただ、筆者はやはり「ネットで見つからないものはない」と判断されてしまう状況から、記事が消えていくことそのものが好ましくない……と思っている。

 では「インターネット・アーカイブ」系はどうか?

 ここに記事がコピーされ、読める形で残っていることもあるだろう。

 だが、実際に使ってみればお分かりのように、「ない」記事のほうが多い。Webを自動的に収集する仕組みも万能ではないからだ。

 日本の場合、国会図書館が「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」を2002年から展開している。公的機関(国の機関、地方自治体、独立行政法人、国公立大学など)の情報は、許諾を得ることなく網羅的に収集している。

photo 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

 だが、民間の情報は許諾を得てからの収集になっており、見つからないものも多い。

 Engadgetの例で言えば、WARPを検索すると、大学が公開したWebの中に「Engadgetで紹介された」「Engadgetの記事によれば」といった形で使われている例は見つかるが、実際に記事が読めるとは限らない。

 「本気で探そうとした時に使う1つの方法」ではあるが、決して万能ではない。

「忘れられる権利」との折り合いをどうつけるのか

 ただその上で、「本当にすべての記事がずっと残り続ける」ことには問題もある。

 いわゆる「忘れられる権利」だ。

 記事がWebに残り続けるということは、過去の知られたくないことや、今の自分とは違う意見・見解をもつ部分についても、後から検索して見つけることができてしまう……ということでもある。

 場合によっては、そうしたものが「消えてほしい」と思う場合もあるだろう。

 自分が書いたブログなどは話が早い。自分で消せばいい。消していないのは「見られてもいい」と思われてもしょうがない。

 ただ、いわゆるメディアに出た記事や、他人が作った記事については、書いた人・メディアと「見られたくない」と思う人の認識の違い、ということもにもなる。個人の生活や権利を侵害するような事柄に関係することは、やはり消す方法があったほうがいいだろう。

 こうしたものこそ、「調べたいと思っている人が真剣に調べる」ことが多いので、単にWeb検索に出てこなくなるだけではダメだ。インターネット・アーカイブ系からも同時に消す方法が必要になる。

 「情報がネットからなくなる」というのは、簡単なようで難しい。だから冒頭で述べた意見のように、「記事がなくなってもさほど問題はない」という意見があるのだと思う。

 いつの間にか「世間からなかったことになっている」という現象と、「真剣に探すと黒歴史がでてきてしまい、使われる」という現象は表裏一体で存在する。

 それをどう解決していくかは、本質的なところまで戻るとなかなか難しいものだ。

 記事のアーカイブだけがWebに残滓として残っていても、管理する人がいなければ「消してもらう」のも難しくなる。そもそも誰にお願いすればいいのか、という話にもなるだろう。

 だから、メディアをやるなら、記事は「管理できるところ」「アーカイブとして欲しいと思うところ」に残すべきだと思っている。ブログについても移管を基本にし、「消したいと思う人には簡単に消せる」よう配慮しておくのが良い、と思っている。

 インターネット・アーカイブのようなサービスを、うまく永続させつつ「申し出に合わせて消していく」管理体系も必要かと思う。

 そうしたジレンマをどう解決していくのか。Webが人類にとっての生活環境であるなら、その上での記録をどう扱うのか、真剣に向き合うための方法論のさらなる検討が必要ではないか、と考えている。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.