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“同人ハード”が「CES」で賞を取るまで メタバース住人が愛用する「HaritoraX」誕生の軌跡(1/3 ページ)

» 2022年04月30日 16時00分 公開
[山川晶之, 石井徹ITmedia]

 同人発のハードウェアが大ヒット。商業製品として量産化し、世界的な展示会で受賞して海外展開へ――絵に描いたような夢物語だが、VR用モーショントラッキングデバイス「HaritoraX」が叶えた実話だ。

「Haritora」の開発者であるizm氏(左)、Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏(右)

 HaritoraXは、SteamVR対応のモーション・トラッキングデバイスで、足の動きや腰の動きを検知できる周辺機器だ。装着すると、VR向けSNS「VRChat」のようなメタバース空間内でお辞儀や座る動作や、VTuberのダンス動画などで全身を使った表現が可能となる。VRChatでは、アバターの全身を動かせるようにすることを「フルトラ」(=フルトラッキング)と呼ぶ。

「HaritoraX」で実現するフルトラの例。こうした床に座る動作はフルトラでないと難しい(画像:岩佐氏提供)
脚も使った自然なモーションが可能だ(画像:岩佐氏提供)

 価格は2万7980円と、VR向けのモーション・トラッキングデバイスとしては安価を実現したこともあり、量産を手掛けるShiftallが2021年10月に発売すると、即日で完売。現在も会社に在庫は持っておらず、作った瞬間に出荷される。販売台数は22年2月時点で“数千台規模”という。

 HaritoraXは海外からの注目度も高い。22年1月には世界最大の家電展示会「CES 2022」にて、「CES 2022 Innovation Award」を受賞しており、米国向けの初回出荷も即日完売となっている。

「CES 2022」で「Innovation Award」を獲得している

 もはや、メタバースにどっぷり漬かるユーザーならおなじみの製品となったが、このデバイスは一人のソフトウェアエンジニアが自作した「Haritora」をベースとしている。同製品はパーツ集めから制作、梱包に至るまで全て手作りの“同人ハードウェア”として生まれたという。

 今回、そのHaritora開発者であるizm氏と、Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏に、モーション・トラッキングデバイスを独自で作るに至ったきっかけと、量産パートナーであるShiftallとの出会いについて伺った。

VRデバイスの難点「お辞儀できない」

 HaritoraXのようなデバイスがなぜ必要とされるのか。それはVRChatを体験してみればすぐに分かるという。

 VRChatは、VR空間を舞台としたソーシャルコミュニケーションプラットフォームだ。ユーザーは好みのアバターを着こなし、「ワールド」と呼ばれる仮想空間内で交流できる。ワールドは街並みや公園、遊園地、バーや小部屋など、さまざまな空間が用意されているが、多くは有志のユーザーが作成したものだという。

 仮想空間内に再現された第2の生活空間と捉えると、いわゆる「メタバース」にもっとも近い存在といえるだろう。

 VRChatは登録無料のサービスで、ディスクリートGPUなど、ある程度の処理能力を備えたPCとVRゴーグルがあれば参加できる。機能は制限されるが、Meta Quest2(旧:Oculus Quest2)のような比較的安価でありながら、スタンドアロンで動作するヘッドマウントディスプレイ(HMD)でも使えるようになっており、参加のハードルが低くなっている。

 HMDとPCさえ用意すれば、制限なしでVRChatの世界を楽しめる。それは間違いないが、実際にログインしてみるとVRゴーグルだけではできない動きがあることに気付く。例えば、「お辞儀をする」「あぐらをかく」といった細かな動きは両手で使うコントローラーだけでは実現できない。

 こうした細やかな動きを実現するために併用するのが、HaritoraXのようなモーショントラッキングデバイスだ。HaritoraXを装着すれば、USB電源で動作し、肩、腰、手首、足先に至るまで全身の動きを取得できる。VR空間であぐらをかいて宅飲みしたり、“添い寝”したりもできるのだ。

VRChatでは「バーチャル飲み会」の集まりもあるという(画像:岩佐氏提供)
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