HaritoraXでは、izm氏が独自開発した初代Haritoraをベースに、Shiftallが商業製品としてブラッシュアップした。外装は金型設計による量産となり、手作業で半田付けを行っていた工程も機械化して、製品としての完成度を高めている。一方で、ソフトウェアなどはizm氏の同人ハードをベースとしており、UIの見直しや多言語化対応などを施した。
izm氏が初代Haritoraを制作した際は、ここまで大規模に生産することは想定していなかったという。発売当初は、「当時のVRChatの日本アクティブユーザー数1万人のうち5%が買ってくれるだろう」(izm氏)と見積もっていたが、岩佐氏はHaritoraを体験して可能性を確信。「もう2桁は売れる」と見たという。
実際に2021年末、HaritoraXの初回受注を日本向けに取ったところ、すぐに完売。CES 2022でも注目を浴びたのは冒頭で触れた通りだ。2022年前半には多言語化対応の後、北米での出荷も開始される見込みだ。
VRChatの日本ユーザーは1割未満と言われており、米国など海外ユーザーが大きく占める。フルトラの利便性は、VR SNSを使っているユーザーならすぐに理解できる非言語性があるため、一層の伸びしろがあると見ているようだ。既に5桁台のHaritoraXを生産できるパーツを確保しており、「今年は攻めていく」(岩佐氏)と意気込む。
購入層も比較的若い。岩佐氏が自身のTwitterアカウントで、HaritoraXの初回販売で購入したユーザーにアンケートを取ったところ、10〜20代が半数を超えた。フルトラに興味があったが、価格や自宅のスペース的にフルトラを導入できなかったユーザーに響いたのではと岩佐氏は分析する。中には、中学生の娘の誕生日にプレゼントした結果、大変喜ばれたという報告もあったようで、「VRやメタバースは技術的関心が高い層が飛びついた草創期を越え、新たなフェイズに入りつつある」と語る。
HaritoraXは、ソフトウェアアップデートで機能拡張を予定している。最初の例として、初回出荷後のアップデートでは、足首の動きの検出に対応。将来的に機能を強化できるよう拡張ポートも備えており、今後は追加デバイスによる機能拡張にも対応するという。どんな新機能が搭載されるのか気になるところだ。
同社はCES 2022で、HaritoraX以外にも、VRヘッドセット「MeganeX」や、メタバース対応音漏れ防止機能付きマイク「mutalk」などユニークなデバイスを発表している。MeganeXはもともと親会社のパナソニックが開発していたもの。事業化の予定はなく、あくまでもB2B向けのプロトタイプ止まりだったが、Shiftallがメタバース事業に舵を切ったことで、パナソニックからバトンを受け取り、B2C向けとして商品化にこぎつけた。
結果として、Shiftallのメタバース事業にパナソニックを巻き込んだ形となったが、岩佐氏は「巻き込まないと面白くない。僕らのポジショニングの意味がなくなってしまう」と語る。市販するにはハードルが高いニッチで尖った商品でも、企業規模的に小回りがきくShiftallなら商品化できるからだ。
今後、米中など海外メーカーが類似の商品を出す可能性もあるが、追随するにはまだ市場規模が小さいこと、特に中国に関しては、SNSの規制があるためVRChatの文化が伝わっておらず、こうしたニーズを汲み取るには時間がかかる可能性が高く、その分アドバンテージがあると分析する。
会社の事業も大きくピボットし、販売する製品の8割はメタバース関連製品に変わるというShiftall。今後、同社とizm氏のタッグが生み出す新デバイスにも期待したい。
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