「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得した――5月15日に投稿されたそんなツイートが物議を醸している。同人ゲームなどで知られる「東方Project」の派生作品として自然発生し、愛されてきた「ゆっくり」が無関係の第三者により商標登録されることから、反発の声が大きく上がっている。
商標権を取得すると、権利者が他者による名称などの使用を制限できるようになる。商標登録番号は6518338で、分類は電子メディアや配信などを対象とする第41類。登録日は2月24日。商標権者は石氷匠さん。問題のツイートを投稿した柚葉さんは「ゆっくり茶番劇」の商用利用に対し、年間10万円(税別)の使用料を求めている。
ただし、商標権が発生するのは、「ゆっくり茶番劇」という文字列に対してのみであり、画像など文字以外のものについては対象外となる。「ゆっくり解説」「ゆっくり実況」なども対象ではない。
「ゆっくり」とは、同人サークル「上海アリス幻樂団」が制作する作品群「東方Project」の二次創作。デフォルメされた頭だけのキャラクターに合成音声を当てて会話劇にしたものは「ゆっくり茶番劇」と呼ばれ、さまざまな投稿者がYouTubeやニコニコ動画に動画をアップロードしている。柚葉さんもゆっくり茶番劇の動画を投稿しているが、東方Projectやゆっくりの制作などには関わっていない。
Twitterでは「商標登録」「茶番劇の件」などがトレンド入りし、数万から数十万件のツイートが投稿された。
同件について上海アリス幻樂団代表の博麗神主(ZUN)さんは15日に「ゆっくり茶番劇の話は耳に入りましたよー。法律に詳しい方に確認しますね」とツイート。ドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇さんも「ニコニコの投稿者にどのような影響があるのか週明けに法務部に確認します」と投稿した。
「ゆっくり茶番劇」の商標登録を巡り、担当弁理士である古岩信嗣さんが所属する海特許事務所(千葉県佐倉市)は16日に「『ゆっくり茶番劇』について」と題する文書を公開。「皆さまに愛されている商標であることを存じておらず、ご迷惑をおかけ致したこと申し訳ございませんでした」と謝罪した。
登録の経緯について同事務所は「よくご存じの方にとってはこれだけ使用されているのにと思われるかもしれませんが、当時のインターネット検索でワードを限定して検索しても件数的には数万件程度であり、周知と呼べるレベルではないと判断した」などを理由として、出願に問題は無かったとしている。
商標審査官の判断についても、商標は出願・公開後、数カ月にわたり問題があれば指摘を受け付ける期間があるが、期間中に指摘もなかったため、問題に気付けなかったとして誤りは無いとした。
一方、今後については「商標権者と本商標は自身の商標であるはずと思われる方との間で話し合い等が行われ、場合によっては無効審判がなされるでしょう」との見方を示した。
その上で、商標制度について「誰が創作した造語かなどは商標登録する上で問題にはなりません」としながらも、「本来登録されるべき方が登録を受けることができず、悪意を持って登録されてしまう可能性もあります」「法的に成立している商標権については法的に対策ができるようになっており、法治国家ですから法律に基づいて対応していけばよいことになります」とコメントした。
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