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» 2021年07月14日 08時00分 公開

電通が炎上覚悟で「アマビエ」を商標出願した理由 弁理士が分析

2020年に「アマビエ」を商標出願し炎上した電通。過去の例から回避できたはずだが、なぜそれを承知で商標を出願したのか。弁理士の長谷川綱樹さんが見解を語る。

[吉川大貴,ITmedia]

 一般的に知られている言葉を商標として出願した結果、「権利を独占するつもりか」と炎上──SNSではよく見る光景だ。例えば2016年にはベストライセンス(大阪府茨木市)という企業がピコ太郎さんの「PPAP」を、17年には飲食事業を手掛けるgram(兵庫県尼崎市)がすでに海外で話題になっていた店名「ティラミスヒーロー」を出願して炎上。いずれの申し出も21年4月までに却下か、無効化されている。

photo 厚労省が「アマビエ」をモチーフに作ったアイコン

 20年6月には、SNSで話題になった妖怪「アマビエ」を電通が商標出願。こちらもTwitterなどで炎上し、最終的に申請を7月6日に取り下げた。電通のこういった動向に対し、ネットでは「アマビエという言葉を独占しようとしている」などの意見が出ていた。

 しかし、前例を見れば出願すれば炎上騒ぎになりかねないのは想定できたはず。なぜ電通は炎上のリスクを認識した上でアマビエを出願したのか。長谷川綱樹弁理士(日本弁理士会 商標委員会)は「(影響力の大きい電通があえて)商標出願することで、『アマビエは誰のものでもない』という空気を醸成し、逆説的に商標問題をクリアしたのでは」と分析する。

電通の判断は「商標が使えないリスク>炎上のリスク」か

 長谷川弁理士によれば電通は当時、すでにアマビエという言葉を使ったキャンペーンを取引先と検討していたという。その時点ではアマビエは商標登録されていなかったが、第三者が登録すれば、電通がアマビエという言葉を使えなくなってしまう可能性があった。

 商標は先に出願した人に優先して権利が与えられ、権利者は類似した商標の利用をやめさせることもできる。一方で、出願時点ではその商標が登録できるかは分からないため、電通はひとまずアマビエという言葉を出願せざるを得ない状況だったという。

 しかし、電通が本当にアマビエの商標登録を狙っていたのかというと、そうではない可能性が高いと長谷川弁理士はみる。

 「商標出願の中には、本当に商標を取得するのではなく、商標が他人に取られて使えない事態を避けるリスクヘッジとして行うケースもある。アマビエの場合は商標出願によって炎上した影響で、結果として誰も登録できない状態になった。推測だが、電通はあわよくば(商標が取れれば)と考えつつ、こういう流れになってほしいと思っていたのでは」

 実際、電通より早くアマビエや「アマビエ●●」といった言葉を出願した企業は他にもあり、中には2カ月以上早く申し出をしていた企業もあったという。一方でこれらの出願は電通が炎上し、申し出を取り下げた後、「アマビエは広く知られた語で、誰か特定の人のものを表す語ではない」といった理由で拒絶されている。長谷川弁理士によれば、特許庁のこの判断にも、電通の炎上が影響した可能性が高いという。

photo 長谷川綱樹弁理士

 つまり電通は、炎上リスクを取ってでも、他の企業に商標を取られて事業が進められなく事態を防ぎたかったといえそうだ。長谷川弁理士は「ネット上には商標出願に対し『人のものを横取りするな』という怒りや義憤を抱く人もいる。しかし出願する人の中には(電通のように)炎上する可能性があっても商標を出願せざるを得ないケースもある」としている。

炎上回避は早めの意思表明で

 現在の商標の仕組み上、他の企業に権利を取られたくない場合は、アマビエの例のように自社も商標を出さざるを得ないのが現状だ。こういった状況で炎上を避けるためにはどうすればいいのか。

photo 長谷川弁理士による炎上や出願の関係の説明

 「こういった(電通のような)状況に陥った場合は、独占の意図がないことを早期に表明する、状況に応じて出願を取り下げるといった対応が必要になる。出願の目的を丁寧に説明することで、ネット全体は無理だとしても、理解してくれる人が増えるのではないか」

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