CA TechnologiesやSymantecの買収は、理に適った戦略の一環である。ただもう少し売上を増やしたい、というのは当然であり、次のターゲットとしてエンタープライズ向けの仮想化ソリューションを提供するVMwareを買収するのは筋が通っている。
またVMwareのここ3年ほどの売上とその内訳を示すと、
2022年度 | 2021年度 | 2020年度 | |
---|---|---|---|
License | 31億2800万ドル | 30億3300万ドル | 31億8100万ドル |
Subscription | 32億500万ドル | 25億8700万ドル | 18億7700万ドル |
Services | 65億1800万ドル | 61億4700万ドル | 57億5300万ドル |
合計 | 128億5100万ドル | 117億6700万ドル | 108億1100万ドル |
といった具合。
ちなみにVMwareは1月末が決算日なので、例えば2022年度なら2022年1月28日の数字となる。先のBroadcomの2021年度の売上にこれを加味すると、半導体は203億8300万ドルのままだがソフトウェアの売上は199億1800万ドル、売上合計は403億100万ドルとなり、ソフトウェアの売上比率は49.4%となる。
つまりハードウェアとソフトウェアでそれぞれ200億ドルずつ売り上げる、非常にバランスの取れた構成になるわけだ。これを考えれば、BroadcomがVMwareを買収するのは、非常に理に適った話である。
では一方VMwareの側は? ということでやはりForm 10-Kを見ていると、冒頭に出てきたパット・ゲルシンガーCEOの時代にはDellの子会社であった。もともと同社は2004年にEMCに買収され、そのEMCをDellが買収したことでDellの子会社になっていたのだが、2021年4月にDellはVMwareのスピンオフを発表、2021年11月に分離する。ただこのスピンオフの直前、同社は株主に対して総額115億ドルの現金配当を行っている。
これ「だけ」が理由ではないのだが、Form 10-Kによれば2021年度1月末には44億4100万ドルだった長期債務が、2022年末には126億7100万ドルと80億ドルほど増加している。この結果として、ここ数年純資産(資産総額-負債総額)が黒字だった同社の財務状況は、2022年度に赤字に転落している。
ただこれはスピンオフに伴う赤字ともいえるわけで、これがなければ同社の財務状況はまだ健全な範疇である。
もっとも、財務はともかくとして、経営はなかなか厳しい、というのがVMwareを取り巻く状況であった。ちょっと2016年度からの売上と営業利益の推移を見てみると、
売上 | 営業利益 | |
---|---|---|
2016年度 | 68億4500万ドル | 9億3000万ドル |
2017年度 | 74億4000万ドル | 12億2000万ドル |
2018年度 | 83億3600万ドル | 14億6300万ドル |
2019年度 | 96億1300万ドル | 18億300万ドル |
2020年度 | 108億1100万ドル | 64億1200万ドル |
2021年度 | 117億6700万ドル | 20億5800万ドル |
2022年度 | 128億5100万ドル | 18億2000万ドル |
となっており、売上こそ順調に増えているものの、2020年をピークに営業利益がまた減る方向になっている。
理由の1つは競争激化であって、仮想化ソリューションを提供するのはVMwareだけではなく、なので研究開発に投資することで製品をより差別化できるように努めると共に、競争力のある価格で提供することも必要になるわけで、どちらも営業利益を圧迫する方向に動くのは間違いない。
そういう意味でもDellの傘下から外れて独立企業になったVMwareの前途がなかなか厳しいのは事実であり、その舵取りは容易ではない。CEOのラグー・ラグラム氏がBroadcomによる買収提案を受諾したのも、無理ないことだろう。
独立企業であるということは、株価維持に対して投資家からの強いプレッシャーを四半期毎に受けることになる。子会社化はこのプレッシャーから逃れられるからだ。
ということで、少なくとも今回の買収は非常に真っ当というか、買収する側とされる側のどちらにもメリットのあるものであったと筆者は考える。
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