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「クレカで乗車」は日本で普及するか? 交通系ICとのすみ分けは? 実験進める鉄道事業者の狙い(1/4 ページ)

» 2022年06月03日 16時00分 公開

 5月31日、福岡市地下鉄でVisaのタッチ決済による改札通過の実証実験プロジェクトがスタートした。Visaの非接触決済に対応したクレジットカードまたはデビットカードを改札の読み取り機にかざして入場し、目的地の駅で再び改札の読み取り機に同じカードをかざして出場すれば、区間の差分運賃が後ほど請求されるという仕組みだ。

 公共交通機関の改札にクレジットカードの非接触リーダーを設置して出入場を管理する仕組みは、2021年4月3日に大阪南部地区を拠点とする南海電鉄で開始されているが、今回の福岡市地下鉄では従来の交通系ICリーダーを搭載した改札にクレジットカードの読み取り機を組み込んで一体化した点が特徴となっている。

 22年7月には福岡の天神駅で福岡市地下鉄と連絡する西日本鉄道でも同様の仕組みがスタートする予定で、天神から太宰府まで「Suica」や「はやかけん」などの交通系ICカードなしでクレジットカードのみでの鉄道移動が可能になる

福岡市地下鉄に導入された2種類の非接触リーダーが一体化した改札装置。天神、中洲川端、博多、福岡空港の4つの駅に同様の装置が設置されている

 このように、日本では過去2〜3年ほどの間に鉄道やバスなどを含む公共交通機関での一般的なクレジットカードによる乗車の仕組み、業界的には「オープンループ」という料金徴収システムの普及が進んでいる。

 世界的にみれば、全国共通の交通系ICカードで多くの場所を自由に動けるというSuicaをはじめとした「10カード」の仕組みは非常に優秀で、韓国、台湾、中国など東アジア地域でしか同様の仕組みは実現していない。

 それにもかかわらず、いまなぜ日本でオープンループが急速に導入され始めているのだろうか。いまだ実証実験の段階ながらも、その背景と、今後の普及の可能性を考えてみたい。

「オープンループ」を導入したい鉄道事業者の事情

 普段住んでいる街で、オープンループが導入されたとしても、それほどメリットを感じないかもしれない。なぜなら、すでにSuicaなどの交通系ICカードを使っていたり、定期券や回数券を利用していたりと、あえて新しい方式のサービスを利用する理由がないからだ。回数券こそ最近では廃止の傾向があり、交通系ICへの集約が進みつつあるが、大枠では変わらないだろう。

 そこで立場を変えて、あまりなじみのない街を訪問したり、あるいはいっそ外国に旅行することを考えてみるといい。前述のように、諸外国で交通系ICカードが国単位などで統一されているケースは珍しい。都市ごとに異なる乗車システムが採用されており、必要に応じてそれぞれの都市でICカードを購入しなければならないだろう。

 ただ、都市によっては外国人などに交通系ICカード利用が開放されていなかったり、短期利用を想定しておらず都度切符を購入した方がいいというケースも多い。そのたびに自動券売機や有人窓口に出向いて切符を入手する必要があるわけで、非常に面倒だ。

 切符の購入もクレジットカードが使えれば便利だが、現金のみというケースも想定される。その場合は現地通貨を事前に少し多めに用意しておく必要がある。米ドルやユーロなど、メジャーで利用機会の多い通貨であれば再両替も容易でそれほど問題ないが、比較的小さな国のマイナー通貨では、事前にどれだけ両替して現地通貨を持っておくべきか判断するのは難しい。

 翻って訪日外国人が日本で旅行しようと考えたとき、同じことを日本で体験したらどう思うだろうか。交通系ICカードは確かに便利だが、スムーズな移動のために購入をほぼ強制される形になる。しかもICカードの入手には日本円の現金が必要で、どうしてもクレジットカードで購入したければ限られた窓口に列を作る必要がある。残高が足りなくなれば、チャージできるのはやはり日本円の現金のみだ。

 そしていざ旅行が終わって帰国の段階になったとき、再訪問予定がしばらくなければ、ICカードに残った残高はそのまま死蔵されることになる。一応現金化は可能だが、やはり窓口にならんで返金処理をしてもらう必要がある。帰国のための空港移動を鉄道で行ったのであれば、ギリギリまで交通系ICカードが必要になるため、払い戻しの窓口は空港に限られることになる。これが外国人の日本訪問体験だ。

フランスのパリで利用可能な交通系ICカード「Navigo」。もともと旅行者向けには「Carnet」という10枚つづりの回数券が用意されていたが、2021年10月以降に段階的廃止が発表され、同様の仕組みを利用したい旅行客には「Navigo easy」というICカードを駅窓口で購入するよう促されている

 ゆえに、交通系ICの導入なしにクレジットカードの“タッチ”のみであちこちを回れるようになれば、外国人にとっての移動は現地通貨への両替も意識せず非常に便利になる。

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