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「クレカで乗車」は日本で普及するか? 交通系ICとのすみ分けは? 実験進める鉄道事業者の狙い(3/4 ページ)

» 2022年06月03日 16時00分 公開

Suicaは「オープンループ」に置き換わるのか

 このように、オープンループが広がる素地が日本でも醸成されつつあるのは確かだが、実際に日本全国で利用できたり、現状の交通系ICカード……具体的にはSuicaをそのまま置き換えるかといえば、まだ当面はやってこない未来だと筆者は予想する。

 その理由としては2つあり、仮に一斉導入となってもシステムの刷新サイクルを待つ必要があるため5〜10年以上の期間を要すること、もう1つはMaaSなどの普及に絡み、必ずしも物理的な“タッチ”がトリガーである必要がないという部分だ。

 まず前者だが、現状のオープンループ導入事例を見ても分かるように、実装方法が確立していない。当面は既存の交通系ICカードと併存することになるため、2つの非接触リーダー装置を改札に取り付ける必要がある。南海電鉄では独立して設置、あるいはクレジットカード専用の改札を用意するなどの処置が取られたが、今回の福岡市地下鉄のケースでは「どのような形で2つの異なる非接触リーダーを1つの改札に同居させるか」を検証するのが大きなポイントとなる。

 コンボ端末のように両者を一体化させた仕組みも考えられるが、FeliCaのサービスもクレジットカードのタッチ決済も同居できるスマートフォンのようなモバイル端末の場合、機械がどちらを優先するか予測できないという問題がある。

 同時に、交通系ICカードのリーダー装置は改札向けにチューニングされており(具体的には出力を上げて認識範囲を通常の倍以上に引き上げている)、EMVCo(国際ブランド6社で構成された業界団体)の標準仕様にのっとる形で出力を変えられないクレジットカードのリーダー装置とでは、技術認定の問題も出てくる。

 2つのリーダー装置が取り付けられ、機構が複雑になった改札機のコストも当然上昇するため、現状、一部の駅の特定のレーンに限定して配置しているものを全駅に展開するのは費用負担面で非常に厳しい。

南海電鉄で導入されたオープンループの改札装置。写真の高野山駅では既存の交通系ICカード用改札の手間にポールを立ててリーダーを設置している

 また現状で対応するクレジットカードの国際ブランドはVisaのみだが、他のAmerican ExpressやJCB、Mastercardなどの対応は2023年以降となっており、少なくとも本格展開はその1〜2年後となるだろう。

 前述のように技術的に解決すべき課題があり、各ブランドが出そろったスタート地点が数年先となれば、日本全国をある程度自由に交通系ICカードなしでクレジットカードだけで回れるようになるには、少なくとも5〜10年以上は先になるのではないかという筆者の予想に結び付く。

 次に後者の部分だが、クレジットカードの“タッチ”よりも先に「QRコード」や「モバイルアプリ」による移動の自由が先にやってきそうな気配がある点だ。

 JR東日本が新宿駅と高輪ゲートウェイ駅でQRコードの読み取りに対応した新しい改札機のプロトタイプのテストを行っていたことが知られているが、コスト的に改札機のメンテナンスや切符の後処理の手間が大きい磁気切符に代わり、QRコードを導入する機運が公共交通事業者の間で高まっている。

 改札通過にQRコードを利用する場合、そのユニーク性を担保するためにクラウドによる出入場のリアルタイム管理が必要となるが、JR東日本ではその布石になる施策をいくつか打ち出しており、少しずつシステムのクラウド化が進行していると筆者は考えている。

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