法改正前は携帯電話回線の契約とセットで端末を購入することが一般的で、端末を非常に安い価格で販売する代わりに、さまざまな制約を設け回線の長期契約が求められる複雑な仕組みとなっていた。具体的な制約としては、他社の回線で利用できないようにする「SIMロック」や、回線を長期契約することを条件に料金を値引く一方、中途解約すると高額な違約金支払いが求められる、いわゆる「2年縛り」の存在などが挙げられる。
つまり以前は端末販売と回線契約が完全にひも付いていたため、端末を安く買うには携帯電話の回線を長く持ち続けないと損をしてしまうし、回線数を超えて端末を安く購入することもできなかったのだ。それゆえ転売のために調達できる端末の数にも限りがあり、大規模転売が防がれていたといえる。
ところが、セット販売で端末の大幅値引きを実現できるのは企業体力のある携帯大手に限られることから、セット販売が主体の商習慣がユーザーの囲い込みにつながり、競争が加速せず携帯電話料金が下がらない要因になっているとして、長年総務省が問題視していたのだ。
そこで総務省は携帯大手の商習慣を変えるべく、10年以上にわたって議論や対処を続けてきた。その集大成となったのが先の法改正で、端末値引きの根幹となるセット販売自体を禁止し、回線契約と端末販売の明確な分離を求めたほか、回線契約にひも付いた端末値引きの上限を税抜きで2万円に規制。さらに2年縛りの違約金水準を10分の1に引き下げ有名無実化するなど、従来の商習慣を法律によって根底から覆したのである。
加えて21年10月には、総務省のガイドラインにより販売する端末にSIMロックをかけることも原則禁止された。その結果、消費者はほぼ縛りを受けることなく自由に携帯電話会社を乗り換えられるようになったし、キャリアショップに行って回線契約することなく、SIMロックのかかっていない端末を堂々と購入できるようになるなど、自由度が大幅に高まったことは確かだろう。
その一方で、端末大幅値引きの根幹を担っていたセット販売が禁止されたことから、端末の大幅値引きは姿を消した。加えて20年に首相に就任した菅義偉氏による政治的圧力で携帯各社は料金の引き下げを求められ、携帯電話料金の大幅な引き下げも実現。これである意味総務省が理想とする市場環境が出来上がったかに見えたのだが、それも長くは続かなかった。
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