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「くすぐり」「息の吹きかけ」を感じるプニプニな敏感人工皮膚 ロボットに着せて人間みたいにInnovative Tech

» 2022年06月21日 07時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 韓国のKAIST、米MIT、ドイツのUniversity of Stuttgartによる研究チームが開発した「A biomimetic elastomeric robot skin using electrical impedance and acoustic tomography for tactile sensing」は、人間の皮膚をまねた柔らかく敏感な人工皮膚だ。人工皮膚を押すと変形し押した力や向きを感知するため「なでる」「くすぐる」「たたく」などのインタラクションを理解する。感度が良く、風が当たった触覚も感知する

人工皮膚を押す、なでる、くすぐるなどの軌跡

 人間の皮膚は、約2平方メートルの面積を持つ最大の感覚器官であり、さまざまな触覚刺激を感じ外部の影響から体全体を守っている。研究チームはこの特徴を再現したロボットの皮膚があれば、人間と同じように環境とインタラクションできると考えた。

 高感度のセンサーが指先に搭載したこれまでのロボットではなく、皮膚の弾力や内部構造をできるだけ模倣した人工皮膚に仕上げ、保護性能やマルチモーダルな触覚、修復性など人間の皮膚に似た特徴(表皮、真皮、皮下組織の3つの層)を持つロボットを目指す。

 提案する人工皮膚は、イオン性ハイドロゲルとシリコーンエラストマーからなる多層構造で構成する。ハイドロゲルとシリコーンの相乗効果により、皮膚のような柔らかさだけでなく、保護のための高い反発力を実現する。

 ハイドロゲルは大量の水を含み、電解質が存在するため導電性を持つ。また表面に触れて発生した振動を多層構造全体に伝えることができる。これらの特性を生かし、層に電極やマイクロフォンを配備することで表面に加わる力(圧力とその動く方向)や振動(たたいた際の波紋)を計測する。

 発生した複数の波紋の大きさと種類を記録することで、くすぐったさを感知することも可能だ。これらのデータは深層学習モデルで分析する。

 皮膚は弱い振動だけでなく、20Nまでの力を検知できる。これは、なでる、押すといった人間の典型的なタッチインタラクションを感知するのに十分な力である。

 この皮膚は、多層構造の内部にワイヤがないため外部からの衝撃に強く、また皮膚が裂けたり破れたりしてもシリコーンの接着剤で修復できるような構造になっている。切開による損傷を受けても閉じると触覚センシング能力が容易に回復する。

 デモでは提案の人工皮膚を搭載した電極付きの義手を作成し、テストを行いその有効性を示した。

提案する人工皮膚を義手に応用した様子

Source and Image Credits: K. Park, H. Yuk, M. Yang, J. Cho, H. Lee, and J. Kim. “A biomimetic elastomeric robot skin using electrical impedance and acoustic tomography for tactile sensing” SCIENCE ROBOTICS, 8 Jun 2022, Vol 7, Issue 67, DOI: 10.1126/scirobotics.abm718



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