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「長距離広角でもワイヤレス充電」 5Gと電力を同時に無線伝送できる小型デバイス 東工大が開発Innovative Tech

» 2022年06月21日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京工業大学の研究チームが開発した「A 28-GHz Fully-Passive Retro-Reflective Phased-Array Backscattering Transceiver for 5G Network with 24-GHz Beam-Steered Wireless Power Transfer」は、電力と5G信号を同時に伝送するミリ波帯フェーズドアレイ無線機だ。完全ワイヤレスで電力を供給し、長い距離と広角度でも高い電力変換効率を実現する。

ミリ波帯フェーズドアレイ無線機と無線ICのプロトタイプ

 モバイル機器やウェアラブルデバイス、IoTなどが多くなってきた昨今、ケーブルを必要としない無線充電システムが待ち望まれている。だが多くの無線充電システムは、伝送距離の短さと受電可能な方向が決まっているという問題を抱えている。

 研究チームは、これらの問題を克服した5Gネットワーク用のワイヤレス給電型送受信機を提案する。このデバイスはミリ波帯無線電力伝送に加え、送受信ともにビームステアリング(電波を細く絞り、電波を集中的に任意の方向に発射、制御する技術)に対応し、アップリンクとダウンリンクの両方で動作する。

 デバイスには点対称アンテナペアを利用したアンテナ・回路一体型移相器を採用しており、これによりビームステアリング時の電力効率が向上し、無線電力伝送の効率を落とさずに低損失かつ2次元の広範囲な電波の送受信を実現した。

点対称アンテナペアを利用したアンテナ・回路一体型移相器

 プロトタイプは、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセスによるICをLCP(液晶ポリマー)フレキシブル基板上に実装し制作した。

 実験では24GHz帯における無線電力伝送および28GHz帯の無線通信によって提案技術を評価した。その結果、受信時に水平・垂直方向において、±45度のビームステアリング特性を達成した。またアンテナを用いたOTA(Over The Air)の測定評価では、無線通信の送受ともに64QAMの変調信号を用いた通信に成功した。

 ビームステアリングが0度から45度に増加すると、提案デバイスは46%の電力を発生し続けることが示された。これは、数パーセントに低下する従来の装置よりもはるかに高い割合で、従来の装置と比較して2倍以上の距離を達成することができる。

先行研究との比較した図

 研究成果は、2022年6月13日(現地時間)から米国ハワイ州ホノルルおよびオンラインで開催の国際会議「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology and Circuits 」で発表された。

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