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ミラーレス+ズームとiPadが入る縦型バッグ ライターが考えた「ノートバッグ」はどう仕上がっていったか分かりにくいけれど面白いモノたち(3/5 ページ)

» 2022年06月29日 08時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]

アイデアスケッチからファーストサンプルまで

 これでアイデアは全部入れている。内装には上部に隠しポケット、内部に水筒や折り畳み傘が差し込めるループ、マチのあるオープンポケットとペン差し、ケースに入れたiPadが入るクッションポケットを注文した。

photo 最初に出したアイデアスケッチ。これを見せながら、細かい仕様を追加していった。この段階で、アイデアはほとんど出来上がっているけれど、バッグ作りはここからが大変なのだった。ここから完成まで1年かかっている

 コストなどは、この時点では何も考えていないし、アイデアなんてサイズと開口部の構造とマチを柔らかい革、表を固い革で作るということだけ。後は欲しいと思った機能を羅列してみただけで、案の定、上がってきたサンプルを見たら、付け足した機能は、ほとんど不要だということに気がついた。

 隠しポケットは普通に前面にファスナーポケットを付けた方がデザイン的にも容量的にも良いし、ペットボトル用ループなんて、モノの出し入れ時に邪魔になるばかりで、使用範囲も狭い。マチがあるおかげで、ペットボトルは入れれば勝手に自分で立ってくれる。

 素人が考える「あったらいいな」は、実際に使ってみると、要らないというより、むしろ邪魔だとすぐに分かる程度のものなのだった。

photo これがファーストサンプル。マチを内側に入れてもらうという部分が伝わっていなかったため、全く想定していなかった形がやってきて驚いた。これだと大きく見えてしまうため、マチを内側に折り畳めるようにと伝え、さらにサイズの修正、内装のシンプル化など、かなり多くの要望を伝えた。しかし、これはこれで何だか使いやすく、バッグ作りに正解はないなあと感じた

 そこまで分かったら、後は、何を大事にするかという点に絞られる。結局、私が重要視しているのはサイズであり、コンパクトにスマートに見えることだった。ついでに自立するといいな、とも考えたが、そこは縫製の方法など専門家に任せるべき部分だろう。そうして、何度もサンプルを作ってもらっては、細部を修正するという作業が続く。

 実を言えばセカンドサンプルの段階で、ほぼ出来上がっていた。サンプルは試用して改善点を打ち合わせした後、メーカーに返送。次のサンプルを待つという手順になる。メーカーは大阪にあり、私は東京にいるので、リモートでの打ち合わせは、中々もどかしいものがあったが、それ以上に、サンプルを返送するのが辛かった。自分が使いたいように作ったバッグだけあって、多少の問題はあっても、他のバッグよりも全然使いやすいのだ。

 もう、これで完成でも良いかな? と何度も思いながら、「ここ、あと5mm伸ばしてください」とか、「ここのポケットのサイズをもう少し広げてください」「ファスナーの位置を少し下に」とか、自分でもどうかと思う細かい部分の修正を依頼したのは、このバッグの使い勝手を決めるのが、そういうサイズや配置だったから。製作段階で出来上がりが地味になることは見えているのだった。

photo セカンドサンプルは、ほぼ完成品と同じ形だが、マチ部分が上手く畳めないという点の他、サイズ的にギリギリを攻め過ぎた結果、やや使いにくくなってしまった点を修正

 面白いのは、サンプルの試用中に見つかるのが改良点だけではなく、思わぬ便利さや、想定していなかった使い勝手に気がつくこと。実際、打ち合わせ中、「これ、横型にした方がよいかも?」とか「いっそトートにしちゃいますか?」など、当初のアイデアを台無しにするような話はいくつも出てきたし、怖いことに、それがメーカーからではなく私からだったりもするのだ。

 結局、完成に近づけるという作業は、あり得たかもしれない可能性をどんどん切り捨てていく作業で、だから、完成に近づくほどに、不安は大きくなるのだった。しかし、サンプル試用中に考えついた、ショルダーストラップを思いっきり短くして、トートバッグのように脇の下にさげる持ち方は、とても良いどころか、このバッグの基本的な使い方にしたいと思えるほどだった。

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