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木工なのにガジェット感あふれる製品を作る会社がブックエンドを考えるとこうなる分かりにくいけれど面白いモノたち(2/2 ページ)

» 2022年07月06日 08時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]
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始まりは「最近のインテリアに合うブックエンドがない」

 木工製品でブックスタンドと言えば、それはあまりにもイメージ通りなので、逆に驚いてしまった。しかも、このところ、木製の机の上に置いて使える小型のブックスタンドは、ちょっとしたブームにもなっている。文庫サイズの箱形の小さなブックスタンドなどは売り切れが続いている製品もあるほどだ。

 そして、手元に届いた「ブックスタンド」は、ストーリオらしいスタイリッシュさはあるものの、最初は、他の製品との違いがいまひとつ分からなかった。ただ、これが机の上や本棚の中にあれば、すごく便利なような気がするという、自分でもよく分からない予感があった。よくありそうで、でも見たことがない形だったということもある。

photo 「ブックスタンド」の使用例。ブックスタンドであり、同時にブックエンドでもある。このように、本棚の中に入れて使うことも可能

 形は、とてもシンプル。150mm×150mmのクルミ材の板の左右に、高さ108mmくらいの曲げ木の仕切りが付いていて、それが、クルミの板の厚み分、ちょっと宙に浮いたように見えるというデザインになっている。サイズが150mmあるので、ハードカバーの本がはみ出さずに立てられる。

 そして、大きな特徴が左右の仕切り部分だ。この仕切り部分の外側が、底板の外側とぴったり同じサイズになっている。つまり、このブックスタンドの左右を壁にぴったり付けて使えるようになっているのだ。メーカーによると、もともとはブックエンドとして開発したのだという。

 「雑貨も扱う書店員さんから、『最近のインテリアに合うブックエンドがない。多くは昔からの事務的・クラフト的か、奇をてらった物でお客様に勧めづらい』と聞き、開発をスタートしました。まずは、従来のブックエンドを木に置き換えてみたのですが、機能的な優位性を見出せず、根本から考え直すことにしたんです」とストーリオ代表の木村和久氏。

photo 最初に試作した、ブックエンドの木製バージョン。曲げ木を活用したフォルムが美しいが、これでは金属製のブックエンドと変わらない

 実際、ブックエンドの多くは、本を乗せるための薄い板を内側にせり出すことで、本の重さで棚自体を支えるものが多い。ただ、その構造だと、金属製の方が合理的。そこで木製の場合、重さを出すために装飾的になったり、箱形にしてしまったりということになる。

 そこで、木村氏が考えたのは、本を使ってブックエンドを重くするという発想だ。そこから、この形が生まれたという。つまり、この製品、左右の仕切りに挟まれた内側に本を並べる「本棚」的な製品でもありながら、その主な用途は、本を並べた「ブックスタンド」自体をブックエンドとして使うことなのだ。

 そして、それは、本棚として机の上に置いた時の収まりの良さ、机の上というスペースに仕切りを設けることの便利さの発見にもつながった。机の上に置いた時の、少し机の上から浮いているように見えるデザインが、見事にハマるのだ。

 「本に特別な“座”を与えたかったのでベースを厚めに取り、現代の家具の軽快さに合わせ面取りを大きくすることで、厚さを浮遊感に変えました」と木村氏。このアイデアが、机の上や本棚に置いた時の木工製品ならではの野暮ったさを消してくれる。インテリアとの調和を考えて木地のままで仕上げた、言わばむき出しの「木」なのに、それこそPCの隣に置いても合うのだから面白い。

photo 少し浮いているように見える底板部分のデザインが、実際に机の上に置いた時に効いてくる

 さらに細かく見ていると、随所にアイデアと工夫、それを支える技術力の高さが感じられて、使っていてうれしくなってくる。

 「ブックスタンドとして使用する際、ストッパーが表紙を隠さないようにしたいと考えて、曲げ木のループで本を支える構造にしました。

 ただブックエンドとして使う際には、ストッパーが本を押す面積が小さいので本を傷めかねません。それを防ぐために、ストッパーを上から下まで真っすぐにベースを貫通させる構造にしたんです」と木村氏。

 しかも、この部分の精度を上げるため、専用プレス治具を開発したそうだ。「ただ、ストッパーとベースの組み合わせ精度を高めると、接着剤の層が薄くなり過ぎて強度が落ちます。そのためストッパーに小穴を開け接着だまりを作ることで強度と精度を両立させています」(木村氏)

photo ストッパーが底板に貫通していて、直角に立っている。ここの精度が高いため、ブックエンドとして使った時にも、使い勝手が良いし、見た目も良くなっている

 シンプルな造形と使いやすさの関係は、これらのアイデアと技術に支えられているのだけど、このストッパー部分に使われている木材は、新潟の豪雪地帯にある広葉樹林の間伐材を有効活用する「スノービーチ・プロジェクト」の一環として、ブナ林を育てるために切られた木材としては使いにくいブナ(スノービーチ)を使用。スタイリッシュであると同時に、こういう活動にも参加できるのが木工製品の面白さかもしれない。

 「木材の選定は、新潟県内(魚沼市大白川地域)で調達できる材の中から、求める製品の機能・デザイン・ビジュアルに合わせて決めています。今回のブックスタンドでいえば、ウォールナット人気の続く家具・インテリアに合わせて、ベースはオニグルミ。ストッパーは曲げに適したブナを選びました」と木村氏。

photo 筆者の使用例

 私は、このブックスタンドを机の上の、ちょっと置いておきたい本や手帳やメモ帳などの一時的な置き場として活用している。ストッパーの手前に出来るスペースがギターピック置き場にちょうど良いのも気に入っている。ストッパーが曲げ木のアーチ状なので、横向きにしても全体を見渡せるため、机の端に置くのにも向いているのだ。

 あまりに便利なので、本棚の中と、整理棚の上にも置きたくて、現在、2個目、3個目の購入も考えている。彩色バージョンもあっても良いかもとか、いろいろ考えている。まさか、こんなに使えるモノだとは、本当に使ってみるまで分からなかったのだ。

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