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Webの歴史とはどんなものだったのか 並行世界Web1〜Web3ではない、現実世界のWeb以前〜Web創世記を語ってみた(2/4 ページ)

» 2022年07月25日 18時56分 公開
[大原雄介ITmedia]

Web 0.0:1984〜1995

 これに続くのが、WebというかWWW(World Wide Web)が立ち上がる土壌を構成した時期である。これを一応Web 0.0と呼んでおく。

 1980年初頭のARPANETは大学や研究機関と軍が入り混じって接続された状態だったが、その後軍関係は1983年にMILNETとしてARPANETから分離される。また1985年には、NSF(National Science Foundation:全米科学財団)がNSFNETが構築される。

 1986年にはCSNET(Computer Science Network:ARPANETに接続できない研究機関や大学などをつなぐため、1981年に米国立科学財団が出資して運用を開始したネットワーク)もNSFNETの一部となり、大学を始めとする学究機関を繋ぐ重要な役割を果たした。

 ちなみにこのNSFNETはそういう訳で学術研究向けとされ、商用利用は禁じるという運用ポリシーが取られていた。これは日本も同じで、1984年に国内の大学間をつなぐネットワークとして立ち上がったJUNETも、商用利用は禁じられていた。

 その意味では、ちょうどこのあたりがインターネットとそれ以前の端境期にあたると筆者は考えている。もう当時大学を卒業して就職していた筆者からすれば、NSFNETとかJUNETは「大学関係者だけが使えるネットワーク」という感じで、それをインターネットとは思えなかった訳だが、逆にNSFNETとかJUNETを利用できる立場のユーザーからすれば、このあたりがインターネットの始まりの時期と感じられたと思う。

 ちなみにこの頃にはUNIXが急速に進歩を遂げており、インターネットとUNIXが次第に切り離せなくなりつつあった時期だと理解している。

 やはりTCP/IPを実装していたのは大きく、それもあってTCP/IPベースのさまざまなアプリケーションやサービスがネットワーク(あえてインターネットとは呼ばない)ベースで利用できるようになっていた。

 まぁ回線は相変わらず細かったが、それでもMailに加えてNetNews(正式?名称はUsenet)とかは広く利用されるようになったし、FTPとかGopherといったサービスも利用可能になり始めた時期だ。

 では筆者からするとインターネットが始まったのは何時か? といえば、商用サービスが始まった時期となる。USENIX(Unix User Group)協会からの資金援助を受けて、まず1987年にUUNET Communication Serviceが始まり、その2年後に社名をUUNET Technologiesに改め商用のインターネット接続サービスをスタートする。

 実はこの1987年に、UUNET Communication Serviceは米国のCompuServeというパソコンBBSサービスとの間で相互接続を行っており、日本からだとNIFTY-Serve→CompuServe→UUNETという形でインターネット接続が可能になっており、1989年になると(電話代を無視すれば)直接UUNETにDial-upで接続する事も可能になった。

 日本だともう少し時期が遅く、1994年にRimnet/Bekkoame/Internet Winというインターネットプロバイダーが一斉にサービスを開始しているが、このあたりが「筆者にとっては」インターネットの始まりの時期という感じである。

 もっともこれ以前にMailとかNetNewsをNIFTY-Serve経由などで使っていた事を考えると、筆者にとっての実質的なインターネットの開始は1990年あたりとしても良いのかもしれない。

 ところで冒頭に出て来たGopher、もうすっかり廃れてしまい、今ではほぼなくなってしまったが、1991年にミネソタ大で開発されたものである。基本テキストベースのサービス(一応GIFのサポートはあった。のちにSoundなどもGopher+で追加された)ながら、HyperLink風のアクセスも可能であり、情報サービスなどには結構便利で筆者もそこそこ使った記憶がある(写真3)。

photo 写真3:最近はWebブラウザでのサポートもなくなったが、いまだにGopherのクライアントの配布は続いているし、「gopher://gopher.floodgap.com:70/」でGopherのサーバにアクセスできる

 実際初期のWebブラウザは全部このGopherをサポートしていた。ほぼWWWの登場と同時期であるが、Webブラウザに比べると軽快に動作し、またサーバーの側の負荷も少なかったため、少なくとも1990年代はまだまだGopherが広く使われていた。

 1990年台に入ってインターネットプロバイダーが個人への接続をサポートしたことで、さまざまなネットワーク接続用のクライアントが出現したのもこの時期の特徴だろう。

 もともと電話回線を使ってのインターネット接続は、UUCP(Unix to Unix Copy Protocol)を利用することが多く、あとはIPを電話回線(というかシリアルライン)経由で繋ぐためのSLIP(Serial Line Internet Protocol)もTCP/IPの興隆期から利用されていたが、後継のPPP(Point-to-Point Protocol)が1992年にRFC1331として定義され(*2)、個人ユーザーがPCからプロバイダに接続する場合にはこちらが使われた。

*2: 最初は1989年のRFC1134で、これが1990年にRFC1171/1172として改定、これをさらに改定したのがRFC1311である。ただこの後も1993年にRFC1548、1994年にはRFC1661とほぼ毎年の様に改定が続いている

 PCだとTrumpet PPP、MacintoshだとMac PPPとかが使われることが多かった気がする。ただこの頃は、回線としても33.6Kbpsとか56Kbpsがせいぜいで、御大尽はISDNを使って64Kbps接続をしていたが、普通のユーザーは(最近サービス終了が話題になった)テレホーダイ(23時から翌日朝8時までの間、通話時間に関わらず料金が一定のサービス)を使ってつないでいた状況だった。

 そもそも現在のような画像やら動画やらをバンバンダウンロードできるような環境ではなかった。この当時はMailとFTP、それとNetNewsが主なInternetの使い方ではなかったかと思う。

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